「決勝での敗北は人生最悪の経験のひとつだ」と言ったのは、74年W杯を終えた直後のクライフだったか。栄光に手が届きかけていた分、届かなかった時に襲いかかってくる衝撃は大きい。五輪に行けるか、行けないか。その当落線上をさまよい、結果的に落選した選手たちの衝撃もまた、相当なものがあるだろう。そして、衝撃を与える側に立たなければならない監督の苦悩も、恐ろしく深いものだったに違いない。
 ただ、なでしこの佐々木監督と男子の関塚監督、両者のたどりついた結論は、見事なまでに正反対だった。そして、個人的にはいささか予想外の部分もあった。
 なでしこの佐々木監督が選んだのは、全員、昨年のW杯に出場したメンバーだった。先のスウェーデン遠征で米国に大敗しただけに、隠し玉、サプライズ的な選手を何人か抜擢するのでは、とも踏んでいたのだが、どうやら、佐々木監督の自信は揺らいでいなかったらしい。「このままでは勝てない。何かを足さなくては」と考えるのではなく、「W杯のメンバーであれば大丈夫」という信頼が先にたった選考だったともいえるだろう。

 逆に「このままではいけない」という思いが強く表れたのが、関塚監督のメンバー選びだった。今回のアジア予選で彼らが戦ったのは、過去数大会と比較してももっともタフな相手である。従来のアジア予選と違い、経験値を世界へ持っていくことのできるアジア予選、というのが個人的な印象だったが、関塚監督の中では予選と本大会は違う、との思いが強かったようだ。

 OA枠をすべて守りの選手で使ったこと、予選で奮闘した大迫ではなく、サイズのある杉本を入れたことなどから、関塚監督が本大会での苦戦を覚悟していることはよくわかる。押し込まれても耐えられる選手で守りを固め、高さ、速さといったわかりやすい特徴を持った選手で少ないチャンスをモノにする、といった展開を想定しているのだろう。

 ただ、予選が苦しかった分、勝ち抜いたメンバーの中には間違いなくある種の連帯感が生まれていたはず。昨年のなでしこを見てもわかるように、こうした精神的絆はチームが勝ち上がっていくうえで欠かせないだけに、本大会までの短い時間に関塚監督がやらなければならないことは多い。

 間違いなく言えるのは、なでしこ、男子ともに、かつてないほどにメダルのチャンスがある大会だということ。大きな目標は大きな重圧を伴うが、大きな重圧は大きな教訓、経験につながっていく。男女とも、準決勝が行われるロンドンを目指し、大いに重圧を楽しんでもらいたい。

<この原稿は12年7月5日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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