世界最高峰のクラブのひとつに数えられるマンチェスター・ユナイテッドに移籍した香川真司の背番号が、噂されていた「7」ではなく、「26」に決まった。
 マンUにおける「7」は特別な意味を持つ。ベルファストの空港にその名をとどめるジョージ・ベストの背中で躍動した「7」は、ブライアン・ロブソンらを経てエリック・カントナに引き継がれ、デイビッド・ベッカム、クリスティアーノ・ロナウドが光彩を加えた。
 伝説の色に染められた「7」を香川が背負うのではないかと英紙「デイリー・テレグラフ」が伝えたが、本人は「僕はまだスタートラインについただけ。重みのある背番号は要求できない」と、これを明確に否定していた。
 もっとも背番号によってプレーの質が左右されるわけではない。過度のプレッシャーを背負わないためにも、香川にとっては賢明な判断だったのかもしれない。

 ちなみにA代表経験のある日本人選手で、現在、欧州リーグに所属している者、今季から所属する者は20人いる。

 香川(マンU)、宮市亮(アーセナル)、長友佑都(インテル)、森本貴幸(カターニア)、宇佐美貴史(ホッフェンハイム)、酒井高徳(シュツットガルト)、岡崎慎司(同)、長谷部誠(ボルフスブルク)、内田篤人(シャルケ)、細貝萌(レヴァークーゼン)、安田理大(フィテッセ)、ハーフナー・マイク(同)、吉田麻也(VVV)、松井大輔(ディジョン)、川島永嗣(リールセ)、本田圭佑(CSKAモスクワ)、乾貴士(フランクフルト)、李忠成(サウサンプトン)、清武弘嗣(ニュルンベルク)、酒井宏樹(ハノーバー)。

 2000年代前半までは、日本人が欧州リーグに移籍するだけでニュースになったが、今じゃ活躍しなければ話題にものぼらない。つまり、それだけ日本サッカーのレベルが向上したということである。

 同じことは韓国にも言える。代表こそ引退したものの欧州においてパク・チソン(QPR)はトップクラスのMFだ。彼を加えて11人のA代表経験者が欧州リーグでプレーしている。
 主なところではパク・チュヨン(アーセナル)、チ・ドンウォン(サンダーランド)、イ・チョンヨン(ボルトン)、ソン・フンミン(ハンブルガーSV)らがあげられる。

 日韓両国でこれだけの選手を欧州に送り出しているのなら、現地で日韓戦を行うことも可能なのではないか。
 そう書くと「欧州で日韓戦?」といぶかる向きもあろうが、6年前にはプレミア・リーグの強豪アーセナルの本拠地でブラジル対アルゼンチン戦が実現しているのだ。

 ゲームにはカカ、エラーノ、ロビーニョ(以上ブラジル)、リオネル・メッシ、カルロス・テベス、ファン・ロマン・リケルメ(以上アルゼンチン)ら錚々たる面々が顔を揃えた。
 この“夢のカード”が実現した背景には、選手のコンディションへの配慮があげられる。南米に戻ってのゲームは長距離移動となるため、万全な状態で試合に臨めない選手が後を絶たない。「それなら、ヨーロッパで」と両国の思惑が一致したようだ。
 もっとも、サッカー強国でスター選手揃いの両国だから第3国で“夢のカード”が実現したとも言える。入場者数は5万人を超えた。

 果たして日韓戦でエミレーツ・スタジアムが場所を提供するかと聞かれれば「YES」とは答えにくい。しかしブラジルとアルゼンチンにはない経済力が日本と韓国にはある。
 日本の企業ではエプソン、ソニー、マツダ、韓国ではヒュンダイ、サムスンなどが欧州の主要クラブをスポンサードしている。
 両国を代表する世界的な企業に一肌脱いでもらえれば、「欧州・日韓戦」の実現に一歩、近づくのではないか。

 仮に欧州での日韓戦が実現した場合、結果はもとより内容も問われる。目の肥えた欧州のサッカーファンを納得させるのは容易ではない。
 つまり本場のファンの厳しい審美眼が日本と韓国の選手たち、とりわけ国内にとどまっている選手たちを奮起させると思うのだ。

 ブラジル対アルゼンチン戦はドーハやニューヨークでも実現している。日韓戦がそこまでの人気カードに成長するには気の遠くなるような時間がかかるだろうが、だからと言って諦めてはいけない。
 日本サッカー協会の新会長に就任した大仁邦彌氏にはサプライズ的な提案を期待したい。

<この原稿は2012年7月6日発売の『週刊漫画ゴラク』に掲載された記事を一部加筆したものです>
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