3日間のオールスターも終了し、プロ野球は25日からいよいよ後半戦がスタートしました。果たして、優勝争いの行方はどうなるのでしょうか。前半戦では新人投手の活躍が目立ちました。特に野村祐輔(広島)、釜田佳直(東北楽天)、武田翔太(福岡ソフトバンク)、益田直也(千葉ロッテ)の4投手の活躍は目を見張るものがありました。今後は、彼らを中心に各リーグでの新人王争いも激しさを増すことでしょう。
 現在、チームの先輩・前田健太投手に次ぐ防御率1.41をマークしている野村は、どの球種でもストライクを取ることができる投手です。しかも、同じストレートでもコースに投げ分けるだけでなく、フォーム、タイミング、スピードなどを駆使して何種類ものボールを投げることができるクレバーさも兼ね備えています。修正能力も高く、打たれても、きちんと試合をつくっていくことのできる投手です。

 野村が1年目からプロの世界で通用している要因の一つには、右打者にも左打者にもインサイドを攻めることができることが挙げられます。しかし、裏を返せば、これはまだ怖さを知らないからとも言えます。前半戦、ローテーションにしっかりと入った野村に対して、他球団は彼のピッチングの傾向を導き出していることでしょう。そして、それを元に対策を練ってくるはずです。例えば、インサイドを簡単に攻めさせないように、各打者がこれまで以上にグッと踏み込んできたり、ストライクが多いために、早いカウントから狙ってきたり……。後半戦では少し苦労するかもしれません。

 しかし、大事なのは、どんなふうに対策をされてきても、勝負どころで自信のあるボールをズバッと投げ切ること。これさえできれば、後半戦もチームに大きく貢献してくれるはずです。広島は現在3位。1997年以来、実に15年ぶりのAクラス入り、そして初のクライマックスシリーズ出場には野村の活躍は不可欠。首脳陣も大きな期待を寄せてくれることでしょう。

 刺激し合う高卒ルーキー

 野村のクールさとは一転、どんどん腕を振って勢いのあるピッチングを見せてくれているのが、高卒ルーキーの釜田です。正直、金沢高校時代はそれほど腕を振る印象はありませんでした。しかし、プロでの彼のピッチングはどんな打者にも恐れず、攻めていく気持ちの表れでしょう、腕の振りが非常にいいですね。その気持ちの強さが顕著に表れたのが、プロ初勝利・初完投を成し遂げた6月17日の巨人戦。その約半月前の5月30日にはノーヒットノーランをやられた杉内俊哉との投げ合いにも臆することなく、1失点完投。その活躍が認められ、今ではローテーションの一角を担っています。今後は夏場に向けて、体のコンディションを整えることが重要になりますが、19歳らしく、どんどん向かっていってほしいと思います。

 この釜田に続いて高卒ルーキーでは今季2人目となる勝利を挙げたのが、“九州のダルビッシュ”の異名をとる武田です。7日、ビジターの札幌ドームで12球団のトップの得点を誇っている北海道日本ハム打線を相手に6回1安打無失点の好投を披露し、プロデビュー戦を白星で飾ったのです。高卒ルーキーのプロ初登板・初先発勝利は球団では南海時代の81年、実に31年ぶりとのこと。武田はおそらく釜田に刺激を受けたのではないかと思います。1軍での記念すべき第1球は151キロのストレート。釜田に劣らず、強気な性格がわかりますね。釜田も武田も、細かいことを考えず、今の勢いを大事に、攻めのピッチングを続けて欲しいと思います。

 さて、リリーバーとして好成績を挙げているのが、益田です。内竜也、薮田安彦とともに強固なリリーフ陣を形成しています。現在、ホールドポイントはリーグトップの25。チームの首位争いに大きく貢献しています。益田はピッチングのテンポを大事にしているのでしょう、ランナーがいない時にもクイック気味で投げるのが特徴です。本格的に投手となってから、まだ4年とは思えないほど、フォームに無駄がありません。どんな球種でもストライクを取れる技術がありますし、打ち取るパターンを確立している益田は、 近い将来、先発として活躍する可能性もあるのではないかと思っています。

 ルーキーではないものの、新人王の資格をもっている3年目の堂林翔太(広島)や2年目の美馬学(楽天)も十分に可能性があります。果たして、今季の新人王は誰の手に渡るのでしょうか。ペナントレースとともに、注目していきたいと思います。

佐野 慈紀(さの・しげき) プロフィール
1968年4月30日、愛媛県出身。松山商−近大呉工学部を経て90年、ドラフト3位で近鉄に入団。その後、中日−エルマイラ・パイオニアーズ(米独立)−ロサンジェルス・ドジャース−メキシコシティ(メキシカンリーグ)−エルマイラ・パイオニアーズ−オリックス・ブルーウェーブと、現役13年間で6球団を渡り歩いた。主にセットアッパーとして活躍、通算353試合に登板、41勝31敗21S、防御率3.80。現在は野球解説者。
◎バックナンバーはこちらから