今年の高校野球の決勝は、史上初の春夏同一カードとなり、センバツに続いて大阪桐蔭が光星学院(青森)を破って史上7校目の春夏連覇を達成しました。大阪桐蔭はもちろんのこと、決勝で完封負けを喫したとはいえ、光星学院も投打のバランスがとれたチームでした。代表49校のなかでも、両校の力は抜きん出ていたと思います。私の印象では1998年、死闘を繰り広げた横浜とPL学園以来のレベルの高さを感じた2チームでした。
 決勝では、大阪桐蔭のエース藤浪晋太郎投手の好投が光りました。プレッシャーのかかる大一番を迎えながら、藤浪投手は気負うことなく非常に落ち着いていました。2安打14奪三振で完封勝ちと数字も内容も言うことなし。西谷浩一監督と2年生キャッチャーの森友哉選手の言葉通り、まさに「最高のピッチング」だったと思います。

 彼は197センチと長身で、非常に腕が長いピッチャーです。その腕をうまくしならせることができているからこそ、初速と終速との差がなく、手元で伸びるのでしょう。「あれだけ体格に恵まれていれば、パワーがあるのは当然」と思われがちですが、逆に言えば、あれだけの大きな体をバランスよく使いこなすのは非常に大変です。腕が長くても、上半身がうまく使いこなせていないことも少なくありません。藤浪投手もここまで来るのには苦労があったはずです。

 実際、センバツではまだバランスが取れていませんでした。腕を振ろうとしすぎるあまり、頭がつっこんでしまっていたのです。そのため、優勝はしたものの強打者の田村龍弘選手、北條史也選手には強襲ヒットを打たれていました。しかし、今大会ではその2人をほぼ完璧に抑えました。自分の体をうまく使いこなすことのできるフォームに仕上がっていた何よりの証でしょう。

 藤浪投手は、今秋のドラフトで目玉となることは確実です。プロに入ると、長いシーズンに耐え抜く体力が必要になってきます。松坂大輔投手(横浜−西武、現レッドソックス)や田中将大投手(駒大苫小牧−東北楽天)のように、高卒ルーキーで1年目から活躍できるケースばかりではありません。藤浪投手には自分なりのペースでしっかりと体をつくり、将来的には日本を代表するピッチャーになってほしいなと思っています。

 松井、成長へのカギ

 さて、今大会、藤浪投手にひけをとらないほどの注目を集めたのが、桐光学園(神奈川)のサウスポー松井裕樹投手です。初戦で史上最多の1試合22奪三振をマークした松井投手は、4試合に投げて通算68個の三振を奪いました。これは歴代3位に入る記録です。まだ2年生ですが、下半身がしっかりしているため、非常にバランスのいいピッチングでした。ピッチャーとしての基本である腕もしっかりと振れていて、ピンチにも動じないメンタルの強さも垣間見られました。

 課題をあげるとすれば、ここぞというときに、力みが生じるからでしょう、ボールが高めに浮く傾向にありました。特に準々決勝の光星学院戦はそれが顕著でした。そこに藤浪投手との違いがあったと思います。藤浪投手は場数を踏んできたこともあり、勝負どころとなると、しっかりとギアを上げ、ストライクを取ることができていたのです。松井投手も勝負どころを見極め、そこで自分の武器であるボールでストライクが取れるようになると、さらにレベルアップすることでしょう。今後はメディアや相手校からのマークが厳しくなり、苦労することも多いと思いますが、それを乗り越えてぜひ、来年成長した姿を甲子園で見せてほしいと思います。


 一方、打撃では今大会を通して目立っていたのは、ホームランの数の多さです。特に上位に上がってきたチームはどこも、よくバットが振れていました。だからこそ、下位打線からも一発が飛び出したのでしょう。大舞台でホームランを打つことは、選手の向上心をあおいだはずです。

 しかし、守備に関しては、少し雑なプレーが目立っていたように思います。エラーをしても、すかさずその後の処理をしっかりとやるはずが、今大会では失敗したことに対しての悔しさが先に出てしまっていたことも少なくありませんでした。個々の能力が高まっていることは非常にいいことだと思いますが、チームとして基本を大事にするという点も忘れないでほしいなと思います。そうすれば、さらに高いレベルの高校野球を見ることができるでしょう。

佐野 慈紀(さの・しげき) プロフィール
1968年4月30日、愛媛県出身。松山商−近大呉工学部を経て90年、ドラフト3位で近鉄に入団。その後、中日−エルマイラ・パイオニアーズ(米独立)−ロサンジェルス・ドジャース−メキシコシティ(メキシカンリーグ)−エルマイラ・パイオニアーズ−オリックス・ブルーウェーブと、現役13年間で6球団を渡り歩いた。主にセットアッパーとして活躍、通算353試合に登板、41勝31敗21S、防御率3.80。現在は野球解説者。
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