第829回 WBC優勝に貢献、ヌートバーの記憶
3年という時間は、あっという間に過ぎる。今年はWBCイヤー。3月5日から1次ラウンドがスタートする。
現時点で、2023年の前回大会同様“二刀流”で臨むのか、DHに専念するかは不明だが、大谷翔平(ドジャース)の参戦表明は、井端ジャパンにとっては、何よりの朗報だろう。
前回大会では、決勝の米国戦の前に、「憧れるのをやめましょう」という名スピーチで選手たちを奮い立たせた。
さて前回大会のサプライズといえば、日本人の母を持つラーズ・ヌートバーの選出だった。
ミドルネームは祖父の名前にちなんでタツジ。その明るいキャラクターから「タッちゃん」の愛称で親しまれた。
侍ジャパンでヘッドコーチを務めた白井一幸は、監督の栗山英樹から「代表に外国人メジャーリーガーを呼ぼうと思っているんだ」と相談を持ちかけられたものの、ピーンとこなかったという。
「呼ぶって誰ですか?」
「カージナルスのヌートバーという選手」
「ヌートバー?」
「伸び盛りの若手なんだ」
「それはわかるけど、もう大会はすぐそこですよ。どうせ呼ぶのなら、ビッグネームの方がいいのでは……」
白井が「ヌートバー?」と聞き返したのもわからないではない。メジャーリーガーといっても、前年の22年にレギュラーを掴んだばかり。ホームランこそ14本放っていたが打率は2割2分8厘。俊足という触れ込みながら、盗塁は、わずかに4つ。
ダルビッシュ有に「ヌートバーって知ってる?」と水を向けると「そんな選手は知らない。日本人だけのチーム編成で、勝てるんじゃないですか」という答えが返ってきたという。
チームメートのヌートバーを見る目が一変したのは、東京ドームでの1次リーグ初戦の中国戦だ。
「1番センター」で先発出場したヌートバーは、1回裏、初球をセンター前に運び、先制のホームを踏んだ。
それ以上に、栗山が「あのプレーが大きかった」と絶賛したのが、日本の1対0で迎えた4回裏の全力疾走だ。
「一塁ゴロなのに全力で走ってセーフになった。あれで流れを呼び込んだ」
ヌートバーは守備でも勝利に貢献した。3回表には、スライディングしながら右中間前方の打球を好捕し、先発の大谷を助けた。
栗山が慧眼の持ち主だったことは、ヌートバーの泥だらけのユニホームが、雄弁に物語っていた。
<この原稿は2026年1月23日号『週刊漫画ゴラク』に掲載されたものを一部再構成しました>
