ロンドン五輪でU-23日本代表が見事、ベスト8進出を果たしました。戦前はグループリーグ(GL)突破も厳しいとの声もある中、2勝1分で首位通過。なぜ、ここまで快調な戦いができているのか。それは、初戦のスペイン戦勝利に尽きると思います。優勝候補相手との一戦でチームがひとつになり、結果も出したことで選手たちは大きな自信を手にし、波に乗りました。
 守備の確立が導いた大金星

 スペイン戦勝利の要因は守備の確立にあります。お互いに静かな立ち上がりの中で、日本は組織的に連動して守り、相手に先取点を許しませんでした。まず、前線から積極的にプレスをかけ、スペインのDFとMFに、パスの出しどころを見つけさせない状況に追い込んだことが大きいでしょう。特にFW永井謙佑(名古屋)のプレッシングは、スペインのDFラインを非常に苦しめていました。 スピードと運動量の多さで、相手のパスコースを2つくらい消していたと思います。スペインにとっては最も厄介な選手だったに違いありません。

 前線からプレスをしっかりかけるには、ボランチを含めた守備陣の協力が不可欠です。彼らがディフェンシブサードにスペースを与えていないからこそ、相手はパスの出しどころが簡単に見つけられず、永井たちがプレスをかける時間ができました。これでは、たとえパスを出せたとしても、守っている側が簡単にクリアできるようなボールになってしまいます。この前線からのプレスとスペースを与えない守備は、3試合をとおして変わっていません。日本はこの守りを確立できたからこそ、3戦連続無失点という結果を残せているのです。

 もちろん、オーバーエージで補強したDF吉田麻也(VVV)、DF徳永悠平(FC東京)の働きも、さすがの一言です。A代表を経験している彼らは的確なポジショニングで危険なスペースを消し、体を張った泥臭い守備ができます。プレー以外でも周りの選手を鼓舞し、若い選手たちの特徴を押さえつけることなく、うまくチームをまとめていると言えるでしょう。

 準々決勝で当たるエジプトは、アフリカのチームらしくスピードと高さを生かしたサッカーを展開してくるでしょう。ただ、チームの連動性は日本のほうが上です。ですから、GLの戦いで見せたように、しっかりと守備を構築すれば、流れの中で崩される場面は少ないでしょう。

 気をつけなければいけないのは、セットプレーです。エジプトとは5月のトゥーロン国際大会で対戦し、2−3で敗れています。3失点のうちの2点はセットプレーから奪われたものでした。セットプレー対策の鉄則は、「1対1に負けない」ことに尽きます。マークについた選手とのポジショニング争いを制する。たとえ競り負けたとしても、体を寄せて簡単にボールに触らせない。この2点を徹底してほしいですね。

 そして、巡ってきたチャンスを確実にモノにすることも重要です。GLでは多くのチャンスを決めきれず、相手を突き放せないシーンが目立ちました。決勝トーナメントは負ければ終わりの一発勝負です。お互いにリスクを最小限にした戦い方をとることが予想されます。決定機はGLの戦い以上に少なくなるでしょう。いくら守りが安定していても、ゴールを奪わなければ勝ち上がることはできません。前線の選手だけでなく、チーム全体がミドルシュートやセットプレーなどを使って、得点への意識をさらに高める必要があるでしょうね。

 なでしこはいつもどおりのサッカーを!

 なでしこジャパンのGLの戦いを振り返ると、戦前の予想どおり、対戦相手から警戒、分析されている印象を受けました。どのチームも布陣をコンパクトに保ち、日本の選手が動き出すスペースを消していました。そのなかで、しっかりとベスト8進出を決めたことは評価に値すると思います。なでしこにとっても初戦のカナダ戦で勝てたことは大きかったでしょう。選手たちは五輪でも「自分たちのサッカーで勝負できる」と改めて自信を得たのではないでしょうか。

 目を見張ったのはボランチコンビのプレーです。澤穂希と阪口夢穂がチームに安定感を与えています。ボールを持ったら時間をかけず、1.5列目の川澄奈穂美や宮間あや、もしくはサイドバックにパスをさばく。これにより、攻撃のリズムをつくりだしています。守りの面でもボランチの位置でボールを奪われてショートカウンターを受けるリスクを小さくするだけでなく、センターバック(CB)の選手がプレーしやすい状況を生み出します。CBは、ボランチがボールを回している間にマークにつく選手の確認やラインコントロールできるからです

 また、ボールキープの時間を短くすることで、2人は戦況の確認に重点を置くことができます。試合をよく見ていると、澤と阪口は前線の選手がプレスをかけて相手を追い込んだところに必ず待ち構えています。これは常にボールと相手選手の動きを把握し、次のプレーを予測しているからできることです。準々決勝以降も、このボランチコンビの出来が日本の命運を握っていると言っていいでしょう。

 準々決勝であたるブラジルは、エースFWマルタを筆頭に、高い個人技を誇るチームです。守備では簡単に飛び込まず、たとえばサイドに追い込んで囲い込み、ボールを奪うことが、ひとつのセオリーになるでしょう。つまり、今までどおりの守備を継続することです。急なコンセプトの変更は、かえって組織を崩すおそれがあります。しっかりと守りを固めた上で、連動したパスワークからゴールに迫る。ベスト8以降もなでしこらしいサッカーで勝ち進み、金メダルを掴みとってほしいですね。

●大野俊三(おおの・しゅんぞう)<PROFILE>
 元プロサッカー選手。1965年3月29日生まれ、千葉県船橋市出身。1983年に市立習志野高校を卒業後、住友金属工業に入社。1992年鹿島アントラーズ設立とともにプロ契約を結び、屈強のディフェンダーとして初期のアントラーズ黄金時代を支えた。京都パープルサンガに移籍したのち96年末に現役引退。その後の2年間を同クラブの指導スタッフ、普及スタッフとして過ごす。現在、鹿島ハイツスポーツプラザ(http://kashima-hsp.com/)の総支配人としてソフト、ハード両面でのスポーツ拠点作りに励む傍ら、サッカー教室やTV解説等で多忙な日々を過ごしている。93年Jリーグベストイレブン、元日本代表。

*ZAGUEIRO(ザゲイロ)…ポルトガル語でディフェンダーの意。このコラムでは現役時代、センターバックとして最終ラインに強固な壁を作った大野氏が独自の視点でサッカー界の森羅万象について語ります。
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