後期に入り、新潟アルビレックスBCは12試合を終えて10勝2敗(7日現在)と、好調を維持しています。正直、前期からは少し落ちるかなと思っていたのですが、個々の選手が前期と変わらず努力してくれており、特に打線は活発でチームトップの打率、打点をマークしています。
 打線好調の要因は、打席での気持ちの持ち方にあります。昨年、橋上秀樹前監督(現・巨人戦略コーチ)には野球に対する考え方や、打席の中での考え方など、野球の基礎を指導していただきました。それを実践できていることが結果につながっているのです。また、高津臣吾監督も「結果に対して臆病になるのではなく、どういうふうに考えて打席に立つかが大事」と言ってくれているので、選手たちはいい意味での“割り切り”ができ、打席でのプランニングをそれぞれがきちんとできています。

 高津監督は投手からの視点で、選手たちにいろいろとアドバイスをしてくれます。一方、橋上前監督は野手からの視点で、話をしてくれました。一見、違う内容のように思えるかもしれませんが、その土台となるものが同じため、チームとしての考え方にブレがありません。選手たちが迷いなくプレーできているのは、そのことが非常に大きく影響しているのではないかと思います。

 さて、7日現在、リーグトップの45打点を挙げ、勝負強さを発揮しているのが平野進也(東福岡高−武蔵大)です。彼は今や不動の2番です。とは言っても、彼に小技を求めているわけではありません。1番・野呂大樹(堀越高−平成国際大)が高い出塁率をマークしていますから、2番打者にはヒットでつなぎ、無死一、二塁、無死一、三塁とチャンスを広げて欲しいのです。そこでライト方向に打つことができ、さらには逆方向に長打の打てる平野を、高津監督は2番に起用しているのでしょう。

 昨季は入団1年目ということもあり、平野には遠慮していた部分も見受けられました。しかし、今季は自分らしさを出そうと、積極さが見られます。その背景には新人選手の存在があります。正捕手を狙う森下慶彦(神奈川工業高−神奈川工科大)と中溝雄也(川和高−明治学院大)です。現在は平野が試合に出場していますが、森下も中溝も、なんとか平野から正捕手の座を奪い取ってやろうという気持ちを前面に出しています。だからこそ、平野もウカウカしていられないとプレッシャーを感じていることでしょう。それがプラスとなって成績にも表れているのです。

 また、リーグトップの打率3割7分6厘をマークしているのが稲葉大樹(安田学園高−城西大−横浜ベイブルース)です。毎年のようにNPB入りが期待されている稲葉ですが、これといったアピールポイントが弱いということがありました。しかし、今季は打撃で十分にアピールしています。プロの関係者からも、「彼のバッティングコントロールはプロでも十分に通用しますよ」という声もあがっており、今後も自信をもってアピールしていってほしいと思います。あえてひとつあげるとすれば、足も決して遅くはありませんので、盗塁数を増やすなど、もっと走塁面に意欲が出てくると、さらにいいアピールになるでしょう。

 HRはヒットの延長線

 一方、後期に入って調子を上げてきているのが佑紀(日本文理高−平成国際大)です。前期は打率1割台とどん底にありましたが、それでも腐らずにバットを振り込み続けてきました。その努力が今、ようやく結果に表れてきています。佑紀は足もありますから、出塁率が上がれば、自ずと盗塁数も増えてくることでしょう。昨季はせっかく出塁しても、悩んで悩んで、結局スタートを切ることができないことが少なくありませんでした。しかし、今季は投手のクセをよく観察したりして、一発でスタートを切る思い切りの良さが出ています。その佑紀ら下位打線が最近では奮起し、チャンスをつくって好調な上位打線につなげるという理想的な攻撃もできていますから、今後さらに攻撃力がアップすることが期待されます。

 さて、私自身はというと、開幕前に故障者が相次いだことで、選手登録をされ、試合には6月から主にDHとして出場しています。6月こそ打率4割台と好調だったのですが、7月は一転、打率1割台とガタ落ちしました。その要因は、自分の甘さ故に出た欲でした。「自分に対しては大きな当たりを求められている」と思ったことと、打線が好調なだけに「自分は一発狙いでもいいかな」と思ってしまったのです。それが見事に空回りしたのが7月でした。

 考えてみれば、新潟は打線は好調ですが、決してホームランが多いというわけではありません。信濃22本をトップに、群馬19本、富山15本に対し、新潟は10本です。にもかかわらず、チームがいい状態にあることを考えれば、やはりホームランを求めてはいけないということなのです。つまりホームランは、あくまでもヒットの延長線上にある結果でしかないということです。そのことに気付いた今は初心に戻り、センターに強い打球を飛ばすことを意識しています。それが功を奏し、少しずつ調子を取り戻してきていますので、7月にチームに迷惑をかけた分、これからしっかりと返していきたいと思っています。

 私自身は昨年には一度、選手として終わりを告げられた身ですから、数字を追うのではなく、とにかく悔いを残さないようにすることが目標です。一打席一打席いかに集中して入ることができるかを大事に、今後も試合に臨みたいと思います。

青木智史(あおき・ともし)プロフィール>:新潟アルビレックスBCコーチ
1979年9月10日、神奈川県出身。98年、ドラフト6位で広島に入団したが、2000年オフに自由契約の身となる。その後渡米し、トライアウトを受け続けた結果、03年にシアトル・マリナーズ1Aと契約。しかし、同年に解雇。翌年には豪州のセミプロチームに所属し、05年には豪州選手主体のウェルネス魚沼に唯一の日本人選手として入団した。同年夏にはセガサミーに入社。08年、新潟アルビレックスBCに入団し、09年よりプレーイングコーチに就任。08年に本塁打王に輝くと、09年には本塁打、打点の2冠を獲得した。187センチ、100キロ。右投右打。
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