「女子サッカー選手って子供の頃はほとんど男子に交じってプレーしているんです。
 普通の女の子は男子とプレーすると見劣りするんですが、そんな中でも男子に負けなかった女の子がいる。そういう子が“なでしこジャパン”に入れるんです」
 こう語ったのはアトランタ五輪女子サッカー代表の大竹七未さんだ。現在は東京国際大学女子サッカー部の監督の傍ら、解説の仕事もしている。
 この6月には13歳年下のJリーガー弦巻拳東と結婚して話題になった。
 大竹さんも小学生の頃は男子に交じってプレーしていた。男子を蹴落としてレギュラーになると、次の日から口もきいてもらえなかったという。
「嫌がらせは、いろいろとありました。無視されるくらいは、まだいい方。私がミスをすると、男子のおかあさんが“何なの、あれ!”とヤジったりする。それも、私の親にわざと聞こえるように(笑)」

 女だてらに、という表現があるが、そのくらいの闘争心がなければ、男子に交じってプレーなどできなかったであろう。

「女のくせにサッカーするなんて!!」
 澤穂希も小学生の頃、聞こえよがしにそう言われたことがあるという。
 それだけならまだしも、試合中にはスパイクを蹴られたりもした。悪質な“いじめ”である。
 そこで澤はどうしたか。

<さすがに頭に来た。
「やられたらやり返せ!」という母の言葉が頭をよぎったのか、私はその男子のスパイクを蹴り返そうと躍起になった。当然彼は逃げ出す。私は追いかける。もう試合のことも忘れていた。

 ボールのない場所で始まった追いかけっこ。
「なんであいつら、別の方向へ走っているんだ?」と周囲も異変に気づく。
 レフェリーの笛が鳴り、ゲームが止められ、二人が呼び出される。
「どうしてこんなことになったのか?」

 両チームのコーチを交えて、説明を求められた。悔しかった。「女子がサッカーをやっていることをバカにされた」という説明すらしたくなかった。なんと応えたか、覚えてはいない。どういう話し合いになったかも記憶にはない。
 ただ悔しさだけは残っている。>(自著『ほまれ』河出書房新社)

 気の強さで言えば澤とボランチを組む阪口夢穂も負けてはいない。
 2つ年上の兄の影響もあり、阪口も小学校低学年からサッカーを始めた。
「もう、その頃から男の子にだけは負けたくないと思っていた。まわりにはヤンチャな男の子もたくさんいました。でも私の方が(気持ちは)メチャメチャ強かった(笑)」

 柔道、レスリング、サッカー……女子が強いスポーツにはひとつの特徴がある。
 子供の頃は皆、男子に交じって練習したり、試合に出ているのである。

 余談だが、オリンピックに5大会連続で出場し、金2、銀2、銅1のメダルを獲得した谷亮子さん(現参議院議員)は小学校2年の時、博多の櫛田神社で行われた大会で、男の子を5人続けて破り、優勝を果たしている。その時の思い出を、谷さんはこう話していた。

「5人とも全部、背負い投げでやっつけたんです。そのうち2人が頭から落ちて脳しんとうを起こし、救急車で運ばれた。打ち所が悪かったんでしょうね。
 負けた男の子の中には正座させられている者もいました。“なんで、あんな小さい女の子に負けるか!?”って頭をバシッと叩かれたり(笑)。ちょっとかわいそうな面もありました」

“天下のヤワラちゃん”に投げられたわけだから、今となっては、その男の子にとってもいい思い出だろう。

 話をサッカーに戻そう。「なでしこジャパン」の活躍により、ボールを蹴る女の子が急増しているという話を聞いた。
 それはそれで結構なことだが、女子サッカー人口が増えてチームができれば、わざわざ男子に交じってプレーする必要がなくなる。

 大竹さんにしろ澤にしろ、小学校時代、地元に女子チームがなかったから男子と一緒にボールを蹴っていたのである。それが精神、技術両面で彼女たちの成長を後押ししたのだ。

 言ってみれば女子が男子に交じってプレーすることは最高の強化策であり、そうして女子サッカーは地歩を築き上げていったのだ。この“伝統”だけは見失わないで欲しい。

<この原稿は2012年8月に発売された『週刊漫画ゴラク』8月17日号に掲載されたものです>
◎バックナンバーはこちらから