連休最中の9月16日、普段は家族連れなどで賑わうお台場のビーチがウエットスーツ姿の人で溢れかえっていた、通常は遊泳禁止となっているこのビーチで開催される「東京アクアスロン2012」の参加者たちだ。「アクアスロン」とは、水泳とランニングの複合競技の名称で、これに自転車が加わると3つで「トライ」、そう「トライアスロン」となるわけだ。なので、アクアスロンの参加者もトライアスロン愛好者や、トライアスロン参加の準備段階という方が多い。休日のお台場がその参加者たちのエネルギーに溢れていた。
(写真:お台場がビーチスポーツで盛り上がる)
 本来、遊泳禁止のお台場でどうしてこの種の競技が開催されたのか? 会場のお台場海浜公園を管理する「東京臨海副都心グループ」が共催となり、東京都が地域活性の一環として、特別に許可を出しているからである(したがって、誰もがこの地で泳げるというものではないので、くれぐれもお間違いないように。そもそも、まだ水質が良いというわけではなく、一般の方にはお勧めできるものではないというのが正直なところだ)。
(写真:許可を受けた中でのスイムも!)

 さて、「お台場でスポーツ」というと、聞き馴染みのない方には違和感があるかもしれない。どうしても観光やエンターテイメントというイメージが先行するお台場だが、スポーツとの関係は深く、お台場は開発当時から様々なスポーツの舞台となってきた。「東京ハーフマラソン」の会場になっていたこともあるし、トライアスロンは当時から開催されてきた。そのほかにも自転車のクリテリウムイベントやモータースポーツ、ビーチバレーまで数多くのスポーツが開催されてきたのである。「ただでさえ人が集まり、混雑する場所で開催する必要があるのか?」という批判もよく聞かれるし、その意見も分からなくもない。特に人の往来に障害が出やすい道路使用イベントに関しては、苦々しく思っている人も少なくないはずである。
(写真:ビーチは素晴らしいロケーション)

 実はこのスポーツ導入計画は、東京都主導でスタートしたという背景がある。お台場開発当初にあった「世界都市博覧会」の白紙化で、開発へのけん引力を失った際に、活性化の一プランとして「スポーツ」があったのである。その一環として、ハーフマラソンやトライアスロンがスタートしたというわけだ。しかし、お台場がここまで発展した現在において必要なのかという議論はまた別の話。前出の様にここではいろいろな立場でいろいろな意見が出ているようだ。

 私は、このトライアスロンの大会初期に関与していた。その関係でお台場にある唯一の小学校の「港陽小学校」に行ったことがある。そこで当時の教頭先生が言った言葉がいまだに忘れられない。「この街は作り物の街です。公園も遊び場も建物も海でさえも人間が計算してできている。自然発生的なものは何もありません。歴史がないので仕方がないのですが、こんなところでは人間はダメになってしまう。ましてや、子供たちの教育上いいはずがない。だから本物を見せてやりたいし、体験させてやりたい。スポーツはその典型で、ぜひ本物を見せてやってください」。まさに教育者としての発言だったが、これって子供だけではなく、人間が生活する上で大切なことかもしれない。とするならば、この作られた街に本物を見る機会を設けることは大切なことなのではないだろうか……。お台場が街として、今後どのような発展をしていくのかわからない。ただ、人間が住み、働き、遊ぶ街として、息吹がなければいけないのではないだろうかと。
(写真:地域活性化のためにスポーツの力が必要だ)

 作られたお台場のビーチを、一生懸命に走る子供たち、息を切らせて海から上がってくる大人たちを見ていると、これでこそビーチなのではないかと思えてくる。ただ、家族連れが、カップルが海を眺めているだけの場所じゃない。見ているだけでなく、一生懸命使ってこそ見えてくるものもある。
 衛生、環境、交通など解決すべき問題はあれど、人が生きていく場所として、ふさわしい今後の方向性を長いスパンで考えていきたいものだ。
(写真:身近な遊び場を子供たちにも)


白戸太朗(しらと・たろう)プロフィール
 スポーツナビゲーター&プロトライアスリート。日本人として最初にトライアスロンワールドカップを転戦し、その後はアイアンマン(ロングディスタンス)へ転向、息の長い活動を続ける。近年はアドベンチャーレースへも積極的に参加、世界中を転戦している。スカイパーフェクTV(J Sports)のレギュラーキャスターをつとめるなど、スポーツを多角的に説くナビゲータとして活躍中。08年11月、トライアスロンを国内に普及、発展させていくための新会社「株式会社アスロニア」の代表取締役に就任。『仕事ができる人はなぜトライアスロンに挑むのか!?』(マガジンハウス)が発売中。
>>白戸太朗オフィシャルサイト
>>株式会社アスロニア ホームページ
◎バックナンバーはこちらから