かつてはお家芸と呼ばれた日本の男子レスリング。日本勢は戦後、参加したすべての五輪でメダルを獲得している。とはいえ、近年は女子の好成績が目立ち、押され気味の感は否めない。今回の北京五輪では、試合ルールが変更された。その対応力が、まずはお家芸復活のカギを握る。前回のアテネで5位入賞を果たし、2大会連続五輪出場を決めた男子フリースタイル66キロ級の池松和彦選手に二宮清純が迫った。
二宮: 五輪出場おめでとうございます。アテネでは5位入賞。それから4年間、コンディションを保つのは難しいことだったでしょうね。
池松: 実はアテネのあと、去年までの3年間は、いわゆる“燃えつき症候群”になってしまいました。 日体大の大学院では「バーンアウト(燃え尽き症候群)」を研究テーマにしていたんです。

二宮: もう一回、“燃え尽きた”自分に火をつけるために何をやりましたか?
池松: 自分の趣味とか、レスリング以外のことをいろいろやってみて、最終的には自分の一番やりたいことはレスリングだと気づいたんです。くすぶっていた状態が長かった分、うまく北京五輪に向けて気持ちを高めることができたかなと思います。

二宮: やはり自分の中で、アテネ五輪ではやり残した気持ちがあったんでしょうか。
池松: そうですね。アテネではメダルを目指して頑張っていました。結果は、それが報われなかった。5位では納得できないという気持ちがあったのは事実です。

二宮: まだ28歳。ピークアウトする年齢じゃないと思うんです。レスリングなどの格闘技は勢いだけでなく経験も大切です。五輪のような大きな大会だと単に強さだけではなく、これまでの経験が大きな戦力になる。その点で若手のころには見えてこなかった面が見えてくるということはありませんか。
池松: ありますね。視野が広くなったという気持ちを持っています。ただ勝負に勝つだけがレスリングじゃないと。「技術や体力ではなく、人間で勝て」と。純粋にいい意味でレスリングを楽しめるような、そんな気分で試合に臨めています。

二宮: 今回の五輪に向けて、大きなポイントはルール改正ですよね?
池松: はい。2分間の3ピリオド制で試合を行い、ポイントを多く取ったほうがそのピリオドをモノにするという形になりました。それで、先に2つのピリオドを制したほうが勝ちというルールです。今までとは試合の展開が大幅に変わりました。もちろんフォールを決めれば、その時点で終了ですけど。

二宮: 個人によっても違いがあるでしょうが、日本人にとってルール改正は不利ですか、有利ですか?
池松: これまではスタミナで勝つのが日本のスタイルでした。このルールでは、短時間の中で点数をとらないと勝てません。日本人にとっては不利とまではいきませんが、ちょっと苦手な戦い方かなとは思います。ただ、今は合宿を通じ、ルールに照準を合わせた練習をやっています。

二宮: ルールへの対応力という点も含め、これまでの経験は試合を戦う上でのプラスに働くような気がします。ぜひアテネの成績を上回ってメダル獲得を、とプレッシャーをかけてもいけませんが、池松さんらしい戦いを期待しています。
池松: レスリングは女子がみなさん頑張っているんですけど、男子も負けたくない。これは誰もが言っていることです。しかも日本人男子のメダルは、五輪ではずっと続いています。今回も誰かが取らないといけない。まずは僕がメダルを取れるよう頑張ります。


<この原稿は二宮清純が出演中のニッポン放送「スポーツスピリッツ」4月7日放送分の内容から再構成したものです>