12日間に渡って熱戦が繰り広げられたロンドンパラリンピックが幕を閉じた。今回は金5、銀5、銅6の計16個のメダルを獲得。特に競泳での活躍が目立った。世界新記録を更新した田中康大をはじめ、アテネからの8年越しの金メダルに輝いた秋山里奈、開会式では旗手を務めた木村敬一など8個のメダルを量産した。またゴールボール女子が日本としては史上初の団体金メダルに輝き、柔道では正木健人も金メダルを獲得。そして車いすテニスの国枝慎吾は、男子シングルスでは史上初の連覇を成し遂げた。今回は、こうしたメダリストの中には名を連ねることはできなかったが、4年後のリオデジャネイロでの活躍が期待される陸上・高桑早生のロンドンパラリンピックに迫った。
「本当に幸せで……。一生懸命にやってきて良かったなと思います」
 最後の種目、200メートル決勝を終えた高桑早生はそう言って大粒の涙を流した。普段は決して人前で涙を見せるような選手ではない。結果がどうであれ、レース後のインタビューではいつも冷静に自分の走りを分析し、丁寧に答える。その落ち着きぶりは、とても20歳の学生とは思えない。だが、そんな彼女が報道陣の前で涙を流したのだ。彼女自身にも、涙の意味を整理することができなかったほど、それは意外なものだったに違いない。
「悔し涙なのか、嬉し涙なのか、わからない……」
 おそらくは、両方の感情が入り混じっていたに違いない。

「スタートはよかったと思うのですが、後半が予選よりも崩れたような気がしたので、残念です」
 最も力を入れて練習してきた100メートルの決勝レースを終えた高桑はそう言って、悔しそうな表情を浮かべた。明らかに「楽しかった!」と満面の笑顔を見せていた予選とは違っていた。14秒22というタイムを聞くと、「全然、ダメですね」とさらに表情を曇らせた。
「世界は遠かったです。すごく悔しい思いがあります」
 だが、彼女は悔しさだけで終わりにするつもりはない。
「4年後を目指す理由がはっきりとできました」
 高桑はそう言って、リオでの活躍を誓った。

 そして3日後には、200メートル予選に臨んだ。この種目に本格的に取り組み始めてまだ間もない彼女にとっては、おそらく未知の領域だったに違いない。だが、彼女はそこで自己ベストを更新し、またも本番での強さを見せた。その走りは日本でインターネットのライブ映像を見た高野大樹コーチをも感動させるほど、完璧な走りだった。

 翌日、2回目のファイナルに臨んだ高桑は、29秒71で最後にゴールインした。自己ベスト更新とはならなかったが、自分の力を出し切ったという点では、彼女は納得していた。
「スタートも思い描いていた通り、バッチリできたと思いますので、自分でも合格点をあげたいです。直線もスムーズに行けましたし、最後もしっかりと加速に乗ってゴールできたので、今の自分の走りができたと思います」
 そして、リオに向けての質問をすると、引き締まった表情を見せた。
「リオではロンドンでの自分超えということを最低限の目標として、また一からやり直していきたいと思います」

 高桑は陸上を始めて5年という短期間で、世界の舞台へたどり着いた。その成長ぶりは周囲をも驚かせている。20歳という年齢を考えても、伸びしろはまだ十分にあるはずだ。4年後、彼女がどんな走りを見せ、そしてどんな表情でインタビューに答えるのか――。リオまでの4年間、彼女から目が離せそうにない。

(文・写真/斎藤寿子)
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