11日までアイランドリーグ選抜チームの監督として、みやざきフェニックス・リーグに行ってきました。結果は3敗1分。ワンランク上のNPBのチームとの試合は選手たちにとって、いい勉強となったはずです。ひとつも勝てなかったとはいえ、打線はヒットもそこそこ出ていましたし、いいピッチングをしたピッチャーもいました。若手の2軍クラスと比べて、大きな実力差はないと多くの選手が感じたのではないでしょうか。
 では、NPBとアイランドリーグの選手の違いはどこにあるのでしょうか。それはピッチャーでであれば球の質や勝負どころのコントロール、バッターであればスイングの鋭さや確実性といった部分に表れています。たとえば、アイランドリーグのバッターが打ち損じてしまう失投を、NPBの選手は確実に仕留めてきました。アイランドリーグのピッチャーがウイニングショットが甘くなる一方で、NPBの選手は勝負球でしくじりません。こう書くと、ほんのわずかな差に思えるかもしれませんが、1球で結果が変わる野球において、これはとても大きな差です。

 1軍レベルになると、ピッチャーもバッターも、さらに1球に対する精度は高まります。本当に些細なところで一流と、そうでない選手が分かれてしまう。それがプロの世界なのです。フェニックス・リーグに参加している選手たちには、このことを肌で感じ、今後に生かしてほしいと願っています。

 今回、リーグ選抜入りした徳島のピッチャーでは、いい内容を見せている選手がいます。そのひとりが1年目の山口直紘です。今季、山口は先発としてチームで唯一の10勝をあげました。彼の持ち味はコントロールの良さ。フェニックス・リーグでもその長所を生かし、10日の千葉ロッテ戦で5回を無失点に抑えました。相手チームからも高い評価を得ています。

 山口は開幕から試合を重ねるごとに成長し、考えてピッチングができるようになってきました。自分の強みを生かすには、どうすればいいのか。空振りは取れなくてもファールになるところを打たせてカウントを稼いだり、走者を許した時は低めに投げてゲッツーを狙ったりと、最近は1球1球に意図が感じられます。それがNPB相手でも通用したわけですから、これはひとつの自信になるでしょう。

 ただ、さらに上を目指すには今のボールの威力では苦しいのが現状です。彼にとって、このオフの過ごし方は今後の野球人生を左右すると言っても過言ではないでしょう。この1年、山口は野球を始めてから最も多くの試合に投げたはずです。そのケアをしっかりしつつ、NPBでも通用する体づくりに取り組むことが求められます。下半身の土台をつくることはもちろん、肩回りの筋力アップも必要です。

 正直、現役時代の僕は、あまりオフにトレーニングをまじめにやったタイプではありません。それだけに今になってみると、「あの時やっていれば」との思いが頭をもたげます。NPBで成功したいなら、完全オフはない――山口にはその覚悟で、この冬を過ごしてほしいと思っています。

 もうひとりは前回も取り上げた岩根成海です。9日の埼玉西武戦、岩根は7回で7奪三振と好投をみせました。しかし、5回に3ランを浴び、3失点。リードを一発で帳消しにしてしまったのです。あの日の岩根の失投はホームランを打たれた1球だけでした。しかし、それでもやられてしまうのがトッププロの戦いなのです。

 岩根は中継ぎから先発に転向し、いい意味でのメリハリをピッチングにつけられるようになりました。単に最初から最後まで全力投球をするのではなく、状況に応じて力をコントロールしながら投げた結果、課題だった制球力もだいぶ安定してきました。低めにボールが集まるようになってきたのが成長の証です。岩根はNPBにかなり近い段階までやってきました。ぜひ、この先の試合でもいいピッチングを見せて、ドラフト指名を勝ち取ってほしいと願っています。

 今季の徳島は前後期とも優勝を逃し、とても残念な成績に終わりました。投手陣は昨季から大幅にメンバーが変わったものの、野手はコマが揃っていただけに、勝てなかったのはひとえに監督の責任です。振り返ってみると攻撃の部分で僕も選手も、やや消極的になってしまった面がありました。機動力を使えるところでも「ここで失敗すると流れを手放すかもしれない」と思いきった作戦がとれず、チャンスを逃してしまったように感じます。

 BCリーグを制した新潟アルビレックスBCは高津臣吾監督がほとんどバントを使わず、機動力を駆使して勝ち進んだと聞きました。クローザーだった高津監督は足を絡められる攻撃が一番の脅威だと自身の経験からよく理解していたのでしょう。僕も接戦の場面で俊足のランナーが出ると非常に神経を使いましたから、その気持ちはよく分かります。だからこそ来季はもっともっと先の塁を狙い、相手に嫌がられる采配をしていきたいと考えています。

 監督就任以降、チーム内ではより頭を使い、しっかりと準備をした野球を徹底してきました。この1年で目指すスタイルはだいぶ浸透してきたように感じます。選手たち自身が、これを実践できるようになれば、より勝てるチームになるはずです。今季の悔しさを忘れることなく、反省すべきところは反省し、来季こそはいい成績を収められるよう全員で頑張ります。そして、来月から始まるトライアウトで可能性のある新人と、ひとりでも多く出会えることを楽しみにしています。


島田直也(しまだ・なおや)プロフィール>:徳島インディゴソックス監督
1970年3月17日、千葉県出身。常総学院時代には甲子園に春夏連続出場を果たし、夏は準優勝に輝いた。1988年、ドラフト外で日本ハムに入団。92年に大洋に移籍し、プロ初勝利を挙げる。94年には50試合に登板してチーム最多の9勝をあげると、翌年には初の2ケタ勝利をマーク。97年には最優秀中継ぎ投手を受賞し、98年は横浜の38年ぶりの日本一に貢献した。01年にはヤクルトに移籍し、2度目の日本一を経験。03年に近鉄に移籍し、その年限りで現役を引退した。日本ハムの打撃投手を経て、07年よりBCリーグ・信濃の投手コーチに。11年から徳島の投手コーチを経て、12年より監督に就任。 
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