今季のプロ野球も、いよいよ大詰めを迎えています。クライマックスシリーズ(CS)が終了し、27日には日本シリーズが開幕します。今季のカードは、熱戦が繰り広げられたCSの末に、北海道日本ハムと巨人というリーグ覇者同士の組み合わせとなりました。リーグのプライドをかけた頂上決戦。果たして、どちらがチャンピオンの座を獲得するのでしょうか。
 2007年からスタートしたCSも今季で6回目を迎えました。ファーストステージが始まってから、セ・リーグのファイナルステージが終了した9日間、なかなかの盛り上がりを見せてくれていたと思います。ファーストステージでは両リーグともに第3戦まで行なわれ、そしてファイナルステージではセ・リーグが初めて第6戦までもつれこむ激戦ぶりでした。

 パ・リーグのCSを制したのは日本ハムでした。福岡ソフトバンクとのファイナルステージでは、無傷の3連勝を飾り、いち早く日本シリーズ進出を決めました。印象的だったのは「チームが一丸となって戦っている姿」でした。打線にしても、自分のできることを精一杯やって次につなごう、という意識が強く、それがバッティングにも表れていました。それは、お互いへの信頼感があったからこそだったと思います。

 3連勝の流れをつくったのは、やはり初戦に先発した吉川光夫でしょう。シーズン同様に7回7安打2失点と、しっかりと先発としての役割を果たしました。彼のピッチングが打線の逆転劇をもたらし、1点差を死守したリリーバーの好投につながったのです。この1勝が「よし、シーズンと同じ野球をやれば勝てる」という自信を生み出してくれたことでしょう。

 打線においても気持ちが一つになっていましたね。例えば、第1戦の7回裏、糸井嘉男の2ランで同点に追いついた後、2死一、三塁の場面で代打・二岡智宏が逆転タイムリーを放ちました。二岡は普段はあまり気持ちを表情に出す選手ではありません。しかし、その時は味方ベンチの方を見て、珍しく笑顔を見せていました。「あぁ、チームでこの試合を楽しんでいるな」。そんな印象を受けました。

 ブレなかった栗山監督

 3年ぶりにリーグ優勝を果たした日本ハムですが、昨季のソフトバンクのような強さはなく、チーム力の差は他球団と拮抗していました。そのため、今季のパ・リーグは開幕前からの予想通り、最後まで混戦模様が続きました。その中で日本ハムが首位を獲得した要因のひとつには、栗山英樹監督の貫かれた采配があったと思います。

 周知の通り、栗山監督は昨年まで評論家として活躍し、コーチ経験はゼロでした。その栗山監督が日本ハムの指揮官に抜擢された時、同じ評論家の私としては、どんな野球をやるのかと、期待感を抱きました。栗山監督は人と会話がしっかりできる方ですから、どれだけ選手といいコミュニケーションを取ることができるかが、チームづくりには重要だと思っていました。

 実際、監督と選手との間にはいい信頼関係が築かれていたのでしょう。栗山監督は選手たちを“大人扱い”し、思い切り伸び伸びと野球をさせていました。それはシーズンだけでなく、CSに入っても全くブレが生じることがなかったのです。監督にブレが生じると、選手の不安や気負いにつながる可能性があります。しかし、栗山監督は短期決戦だからといって、特別に変わったことはしなかった。だからこそ、選手たちは安心していつも通りの野球ができたのです。

 一方、巨人ですが、ペナントレースでは圧倒的な力を誇り、2位・中日に10.5ゲーム差をつけて3年ぶりにリーグ優勝を果たしました。高橋由伸や村田修一といった、ベテランや新加入の選手に対しても分け隔てなく、競争心をあおいだことがチーム力を上げたのではないかと思います。

 そのペナントレースの勢いそのままに、日本シリーズの切符獲得を狙った巨人ですが、中日とのファイナルステージでは、まさかの3連敗を喫し、一時は崖っぷちに立たされてしまいました。とはいえ、3連敗の要因は、原辰徳監督の采配や巨人の選手のプレーがどうの、というよりも、短期決戦の勝ち方を熟知している中日の強さが光ったことに尽きます。

 その後、3連勝し、3年ぶりとなる日本シリーズ進出を決めたわけですが、チーム浮上のきっかけは坂本勇人だったと思います。1勝3敗と、もう一つも負けることのできなくなった第4戦、坂本は先制タイムリーを含む4打数2安打1打点をマークし、チームの勝利に大きく貢献しました。彼のような若い主力選手がヒットを打って、グラウンドを駆け回る姿が、チームを勢いに乗せたのです。それが、後の阿部慎之助や村田、高橋といった中堅以上の選手を奮起させたのでしょう。

 カギを握る第1、2戦

 さて、27日からスタートする日本シリーズですが、日本ハムはやはりこれまで同様、いかに普段通りの戦いができるかがポイントになると思います。そして、ピッチャーについては真っ直ぐに強い打者が多い巨人打線に対して、吉川や増井浩俊、武田久といった速球派投手がどんなピッチングをするかにも注目したいですね。

 巨人は、先発投手がいかに粘ったピッチングができるか、そして打線が本来の力を発揮できるかでしょう。その意味ではCSには登板しなかった杉内俊哉が戻ってくるかどうか、そして本来のピッチングができるかは非常に重要です。また、打線においては、やはり主将で4番の阿部です。彼が第1、2戦で活躍すれば、間違いなくチームは勢いに乗るはずです。

 しかし、CSを見ている限りにおいて、巨人には不安要素がいくつかあります。その中でも最も心配なのが抑えの西村健太朗です。確かにスピードは出ているのですが、明らかにボールのキレが落ちてきているのです。おそらくシーズンの疲労が出てきているのでしょう。勝負の分かれ目はゲームの終盤となると思いますので、西村のピッチングの出来が非常に大きく影響してくると思います。

 予想では日本ハムがやや有利といったところでしょうか。というのも、自分たちの野球で勝ち上がってきた日本ハムと、苦しみながらもなんとか勝ち上がってきた巨人とでは、勢いは日本ハムにあります。巨人としては、ホームで迎える第1、2戦をモノにし、ペナントレースでの勢いを取り戻したいですね。

 日本ハムと巨人との日本シリーズでの対戦は、1981年、2009年に続いて3度目となります。過去2度の対戦成績は、いずれも4勝2敗で巨人が日本一の座を手にしています。果たして巨人が相性の良さを発揮するのか。それとも日本ハムが3度目の正直とするのか。27日、いよいよスタートです。

佐野 慈紀(さの・しげき) プロフィール
1968年4月30日、愛媛県出身。松山商−近大呉工学部を経て90年、ドラフト3位で近鉄に入団。その後、中日−エルマイラ・パイオニアーズ(米独立)−ロサンジェルス・ドジャース−メキシコシティ(メキシカンリーグ)−エルマイラ・パイオニアーズ−オリックス・ブルーウェーブと、現役13年間で6球団を渡り歩いた。主にセットアッパーとして活躍、通算353試合に登板、41勝31敗21S、防御率3.80。現在は野球解説者。
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