ドラフト会議前にはメジャーリーグ行きを表明していた大谷翔平選手の北海道日本ハム入りが正式に決定しましたね。栗山英樹監督は投手と野手との“二刀流”を考えているようですが、いずれにせよ、将来は日本を代表とする選手になり得る逸材であることには変わりありませんから、今後が楽しみです。さて、そんな中、ストーブリーグまっただ中のメジャーリーグからは次々と日本人選手の契約合意の朗報が届けられています。その中で6年越しの夢を叶えたのが、藤川球児投手です。日本を代表するクローザーですから、メジャーでどんなピッチングを見せてくれるのか、注目選手の一人です。
 藤川投手はこれまで何度も阪神球団にポスティングシステムでのメジャー移籍を希望してきました。しかし、チーム事情もあって、なかなか実現することができませんでした。今年4月に海外FA権を取得したことで、ようやく念願が叶ったのです。その藤川投手が数あるオファーの中から選んだのは、シカゴ・カブスです。1871年創設の古豪球団で、本拠地のリグリー・フィールドはメジャーで2番目に古い球場です。非常に人気のある球団ではありますが、2009年以降はプレーオフに進出することができていません。今シーズンも61勝101敗と大きく負け越し、ナショナルリーグ中地区の5位に終わりました。

 今オフの最大の補強課題として挙げられているのが、リリーフです。今シーズンのリリーフ投手陣のチーム成績を見ると、防御率4.49はリーグ16チーム中13位、28セーブはメジャー最少、56被本塁打はリーグで2番目に多く、四球はメジャー最多の259個。これでは優勝どころの話ではありませんね。そこで目をつけたのが、日本球界で実績を積み上げてきた藤川投手でした。

 現在、カブスのクローザーは通算115セーブを誇るカルロス・マーモルです。今シーズンは28セーブ中20セーブを挙げましたが、55回1/3を投げて、四球が45と制球難に苦しみました。シーズン途中にはマイナーに降格、オフにはトレードの話が浮上していたのです。球団が絶対的な信頼を置いていないことは明らかですね。

 1年目はセットアッパーでの起用が濃厚と言われている藤川投手ですが、私はクローザーとしてのチャンスもあるのではないかと踏んでいます。クローザーというポジションが誰にも確定していないだけに、球団は何人かのピッチャーにチャンスを与えることでしょう。だからこそ、藤川投手はスタートダッシュをかけることが重要です。最初にいいイメージを与えることで、チャンスは増えてくるはず。逆にモタモタしていれば、他のピッチャーがモノにしてしまいます。

 初球から勝負にいく強気が重要

 さて、ここ数年の藤川投手は真っ直ぐ一本でねじ伏せるというスタイルから、変化球でカウントを取り、真っ直ぐやフォークで勝負するといった、配球にメリハリをつけたピッチングへと変化してきました。これは決して“退化”ではなく、藤川投手の努力と工夫のもとにもたらされた“進化”です。

 とはいえ、メジャーでもこのスタイルでいくのは危険です。メジャーのバッターはたとえ180キロの剛速球でも、主力クラスなら打てるほどのレベルですから、カウントを整える前に打たれてしまいます。ですから、追いこんでから勝負ではなく、初球から自信のあるボールで勝負すべきです。藤川投手のボールはスピン率が高く、キレで勝負できるピッチャーですから、高ささえ間違えなければ通用するはずです。

 1年目からクローザーとしてのポジションを確立することができれば、チームの状況次第ではありますが、30セーブは十分に狙えると思います。しかし、長いシーズンの中では壁に当たり、スランプに陥ることもあるかもしれません。そんな時は、落胆するのではなく、「まだまだだな」と謙虚に受け入れることができるかが重要です。長距離移動に耐え得るだけのコンディションづくりとともに、こうしたメンタル面がクリアできるか。いずれにせよ、藤川投手の手元で伸びるストレートと落差のあるフォークで、メジャーのバッターをきりきり舞いにする姿を見たいものですね。

佐野 慈紀(さの・しげき) プロフィール
1968年4月30日、愛媛県出身。松山商−近大呉工学部を経て90年、ドラフト3位で近鉄に入団。その後、中日−エルマイラ・パイオニアーズ(米独立)−ロサンジェルス・ドジャース−メキシコシティ(メキシカンリーグ)−エルマイラ・パイオニアーズ−オリックス・ブルーウェーブと、現役13年間で6球団を渡り歩いた。主にセットアッパーとして活躍、通算353試合に登板、41勝31敗21S、防御率3.80。現在は野球解説者。
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