著者は現役、監督と計43年間にわたってプロ野球のユニホームを着た文字どおりの“生き証人”だ。球界の舞台裏にも精通している。他球団の出来事についても感想を述べているが、やはり自らが当事者であった「重大事件」の解説の方がはるかにおもしろい。
「野球を取るか、女を取るか、ここで決断せい!」。世上をにぎわせたのが1977年秋の解任騒動だ。まだ公式戦が残っているにもかかわらず、著者は南海の兼任監督の座を追われた。その理由は「私生活問題」。先のコメントは著者の後援会長である著名な僧侶。著者は<現在の妻である沙知代とは同棲していた>のだ。究極の二者択一を迫られて、さて著者は何と言ったか。「女を取ります」。ここから先のやり取りはちょっとしたドラマである。
 二出川延明球審への抗議事件も興味深い。あるゲームで皆川睦雄が投じたど真ん中の直球がボールと判定された。著者と2人で詰め寄ると二出川は平然と言い放った。「いまの球は気持ちが入っとらん」。怒るどころか、これに納得した皆川、以来、1球たりとも気を抜かなかったという。昭和の野球ならではのエピソードだ。 「プロ野球重大事件」 ( 野村克也著・角川ONEテーマ21・724円)

 2冊目は「プロ野球血風録」( 坂井保著・新潮社・1300円)。 著者は太平洋クラブの観客動員アップを狙ってロッテとの“遺恨試合”を仕掛けたことでも知られる元敏腕フロントマン。球団経営の内実を知る男が描いた球界の裏面史。

 3冊目は「刑務所なう。」( 堀江貴文著・文芸春秋・1000円)。 今、著者は長野刑務所に服役中だ。非日常の環境下での日常を綴る。獄中で読んだ本の書評や時事ネタ評論、刑務所内の意外なルールやイベントの紹介もあって興味深い。

<上記3冊は2012年3月28日付『日本経済新聞』夕刊に掲載されたものです>
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