羽生結弦だけが言えること
羽生結弦選手が総指揮を執り、自ら出演した単独公演「“REALIVE(リアライブ)”an ICE STORY project」(以下、REALIVE。4月11日、12日に宮城県利府町にて開催)を現地で目の当たりにしてから、2カ月が経過した。REALIVEには、羽生のICE STORYに対する矜持を垣間見たシーンがあった。
ICE STORYとは、羽生による単独公演だ。スケートを軸とした身体表現、音楽、映像、照明を融合させ、独自の世界観を表現するエンターテインメントである。
つまり、世界中でICE STORYを表現できるのは彼だけなのだ。
「“REALIVE”」以前、ICE STORYと明確に謳った作品は、以下の3つ。
「“GIFT” at Tokyo Dome」
「“RE_PRAY” TOUR」
「Echoes of Life TOUR」
プロ転向後、初の単独公演「プロローグ」は、明確にそれと謳っていないものの、この作品が、のちに生み出される3作品の方向性を決めたのだろう。
羽生は、昨年7月から約8カ月間、「メンテナンス期間」とし、怪我の治療や肉体改造に取り組んだ。単独公演に限れば、「Echoes of Life TOUR」以来、1年2カ月ぶりのICE STORYだった。
羽生は、メンテナンス期間を振り返った。
「ちょっと、スケートから離れる期間……離れざるを得ない期間がありました。いろいろ痛んでいる箇所、酷使してきた箇所を、これから長く続けていくにあたり良い方向に持っていきたくて、メンテナンスをしました」
4月のREALIVEは、1部と2部に分かれている構成だった。今回、注目する点は1部の終盤、スクリーンに映し出された約4分間の映像だ。映像はREALIVE制作準備中に撮影されたものだった。その中に、アイスリンク仙台でスケートの練習をする姿が映った。
助走から、ジャンプの踏み切りに入り、跳んだものの空中で体の軸が開き、わずか2回転。何度も痛めた右足首での着地が、踏み切りを躊躇させたのかもしれない。
羽生によるナレーションが入った。
「手応えもありつつ、やっぱりまだまだ練習不足だなぁ~と思うこともたくさんありつつ……。でも、ちょっとずつ体が強くなってきたり、練習してきたことができるようになってきた。いま、本当に急激に変わりつつあるところなんです」
そしてカメラは再度、羽生がジャンプにトライする瞬間を捉えた。思い切った踏み切りから見事、4回転を回り切り、氷に降りた。
右足で着氷した瞬間、「よっしゃあ!」と羽生は叫んだ。彼の声がリンクに響き渡った。両こぶしを握り締めもう1度、「よっしゃあ!」と雄叫びをあげ、大声でこう言った。
「おかえりっ!」
治療を経て、トップスケーターとしての感覚が戻ったことへの「おかえりっ!」に、聞こえた。この「おかえりっ!」こそが、ICE STORYシリーズ再開の大きな一歩だったのかもしれない。
そしてもう1カ所、映像の中から紹介しよう。「スケートって改めて、やっぱ難しいなって思いました」と羽生は語り、付け足すようにつぶやいた。
「ICE STORY、やってるって感じ」
笑いながら口にしたこのセリフにこそ、羽生結弦のICE STORYに対する矜持を垣間見た。なぜならば、このセリフは世界でたったひとりにしか言えないのだから。
(文/大木雄貴)