執念のドロー。セットプレーは日本の「強み」に
日本代表が攻勢に出た終盤、同点に追いつく勢いはあったが、まさかセットプレーからだとは思わなかった。
北中米ワールドカップ、グループステージ初戦のオランダ代表戦。再度リードを許し、1―2のまま後半43分まで進んでいた。右CKを得て、キッカーは伊東純也。オランダはスタメン平均身長で日本を6㎝以上も上回り、かつフィールドプレーヤー全員をペナルティエリア内に入れてきたのだから確率的にはかなり難しい状況だと言えた。
だがどうだ。ペナ内に6人配置する日本はファーから一斉にニアに向かい、伊東のアウトスイングのボールを小川航基がヘディングで合わせ、ファンダイクをブロックした鎌田大地の頭をかすめてゴールを奪った。セットプレーで強みを発揮する小川の特長と、かつオランダを分析したうえで事前に準備した形だったに違いない。
布石はあった。
日本が押し込んだ終盤、このシーンの前に2度、CKの機会を得ている。いずれも右で、キッカーは伊東だ。後半30分はファーに送り、中村敬斗のシュートを呼び込んだ。ゴールシーンの1つ前のCKではニアの速いボールをクリアされている。3度目はまた違うコースとパターンを使って、あのゴールを生み出したわけである。
森保一監督体制2期目はコーチを担当制にしており、攻撃のセットプレーは前田遼一コーチが任されている。現役時代はセットプレーに強く、ヘディングもうまかった。
思い出すのが2024年9月、アジア最終予選の初戦となった中国代表との一戦。7-0大勝の口火を切ったのがセットプレーであり、久保建英からのボールをニアで遠藤航が合わせた。味方によるスクリーンから遠藤をフリーする作戦が見事にハマった。これは前日練習で前田コーチのもと試していたパターン。先制点の瞬間、森保監督はベンチにいる前田とタッチを交わしている。
このように前田コーチのもと、攻撃のセットプレーが磨かれてきたことは言うまでもない。
加えて、本大会直前のタイミングで日本代表のキッカーを務めてきた中村俊輔コーチが入閣。担当はPKとのことだが、伊東、久保、鎌田大地、菅原由勢らセットプレーのキッカーに対してアドバイスを送っていることは想像に難くない。
アイスランド代表との壮行試合を前に、森保監督にインタビューする機会があった。この試合では身長の高いアイスランドに対し「セットプレーのいいシミュレーションになる」と語り、このように続けている。
「セットプレーは毎回積み重ねでやっていること。攻撃のセットプレーでも向上できているのは前田コーチの貢献が大きく、対戦相手とのかみ合わせで何ができるのかをいつも考えてくれています。本大会に向けてもいい準備をしていきたい。そのうえで俊輔コーチの持っているアイデア、経験をプラスアルファにしていければいい」
オランダ戦を振り返ってもFKの場面では右利きの鎌田、左利きの久保2人が並び立った。これは「右の遠藤、左の中村」とかつての日本代表がそうだったように、左右両方いることで相手をかく乱する狙いもあったはず。中村コーチのエッセンスもチームにしっかり組み込まれていると感じた。
中村コーチの現役時代に“CK論”を聞いたことがある。
「CKは練習中から積み上げていくもの。やっぱり中で合わせる選手の信頼を勝ち得ないといけない。“あの人のボール、いつも違うんだよな”って思われたら、中に飛び込んでくるスピードや、このボールに合わせて決めてやるっていうメンタルにも影響が出てくる。絶対にここに来るから、決めてヒーローになってやるっていう欲をかき立てていけるような、そういうボールを練習から蹴るようにしている」
練習から積み上げて、蹴るほうの意識、合わせるほうの意識を一致させてゴールに結びつける。全体をオーガナイズする前田コーチと、キッカーの心得を伝えられる中村コーチ。森保監督が「勝つ確率を1%でも上げるために」中村コーチを必要とした理由が理解できる。
グループステージ第2戦の相手はチュニジア代表になる。グループステージ1、2位突破を考えると勝ち点3が欲しい。チュニジアは初戦でスウェーデン代表に大敗を喫して監督交代となり、サウジアラビア代表で前回のカタールワールドカップを戦ったエルベ・ルナール監督が就任した。短期間でどこまで建て直せるかは分からないが、守備を固めてくることも十分に考えられる。オランダをこじ開けたセットプレーが、攻略の一手となるような気がしている。