ライセンスないが次期監督に本田圭佑歓迎

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 圧力をかけたとされる側も、かけられたとされる側も、直接的な影響はなかった、と言っている。かけた側はレッドカードの何たるかさえ知らず、かけられた側は「よくあることだ」とまで言い切った。ならば、信じよう。圧力はなかった。レッドカードの意味を知らない人間が、バログンの価値を知っているはずもない。カードのルールはトランプによって歪められたわけではなかった、と信じよう。

 

 ただ、事実として、出場停止は撤回された。

 

 過去、独裁者や軍事政権、さらには巨額資本が介入した八百長や審判買収が囁かれたことはあった。だが、一度決まった裁定が日を置いて覆ったことは一度もなかった。プーチン政権下のロシアでも起きなかったことが、今回は起きた。

 

 筑紫哲也さん風にいうならば、「FIFAは死んだに等しい」。

 

 圧倒的な権力、財力を持つ者が電話をかければ、ルールはいとも簡単に覆る。圧力であろうがなかろうが、覆る。そのことを、米国に負けないほどの経済力を持ち、米国以上にW杯への出場と躍進、さらには開催を熱望する超大国の独裁者が見た。

 

 皮肉なことに赤い“悪魔”なる異名をとるチームによって、W杯史上最悪の不正は正された。だが、どれほど不当であっても一度下されたジャッジには従うべき、というサッカー界の伝統は、今大会をもって破壊された。今後、FIFAは「あのゴールはハンドだから再試合を」といった声があがった際、どう対処していくつもりなのだろうか。

 

 ちなみに、インファンティノ会長は来年行われる次期会長選への立候補を表明しており、4月の段階で南米、アフリカ、アジアなど111カ国からの支持を取り付けたといわれている。前回同様に“無風選挙”が確実とされた情勢だったが、今回の騒動を受けても、各国協会はインファンティノ会長を支持できるのだろうか。彼への信任は、今回の騒動を容認するという意味にもなりかねないのだが。

 

 さて、森保監督の続投か否かに注目が集まっていた次期監督問題に、思わぬところから声が上がった。個人的には本田圭佑の立候補、大歓迎である。

 

 確かに彼にはライセンスがない。それでも名古屋の監督がやりたい、というのであれば、わたしは反対する。だが、代表監督とクラブの監督は必ずしも同一の仕事ではない。そして、どこの国の指導者ライセンスであっても、まず想定されているのはクラブで指揮を執るケース、である。W杯をいかに戦うかを教えてくれる場ではない。

 

 40年前、西ドイツサッカー連盟が指揮を委ねたのは、監督ライセンスを持たないベッケンバウアーだった。もちろん異論はあったが、決め手となったのは選手として3度のW杯に出場していたことと、そのカリスマ性だった。

 

 W杯で勝つ国とは、サッカーが国民的な関心事となっている国、である。では、サッカーがまだ国民的な関心事となっていない国はどうするべきか。関心を集めるための努力を続けるしかない。

 

 突拍子もなく思った方もいたであろう本田圭佑の代表監督立候補は、日本サッカー協会の立場からすれば、より代表チームに関心をひき寄せるための格好の機会でもある。彼を代表監督候補として認めれば、次期監督選びは単なる作業ではなくイベントに変わる。

 

 ライセンスを持っていないから、という理由で却下するには、あまりにも惜しい。そう思いませんか?

 

<この原稿は26年7月9日付「スポ-ツニッポン」に掲載されています>

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