クラブ以上の力発揮する日本代表の強さの要因
1位で抜けてモロッコと戦うか。それとも、2位でブラジルか。いや、そもそもC組の首位をブラジルと決めつけていいものか。最後の最後にスコットランドが意地を見せて、ブラジルを2位に引きずり降ろすのではないか……などなど、自分史上もっとも浮かれた状態で1次リーグ最終戦を迎えようとしている。
チュニジア戦で圧倒的な勝利を収めたことで、日本サッカーを見る世界の目は本格的に変わり始めた。「もはや完全な優勝候補だ」と太鼓判を押す識者がいれば、「三笘、南野、遠藤、久保がいなくてこれか」と選手層の厚さに驚愕するファンもいる。個人的に興味深かったのは、「なぜ、世界的な名手が一人もいないのに、これほどまでに強いのか」という疑問の替えだった。
これは、良くも悪くも日本サッカーについて言われ続けた意見でもある。つまり、組織力は素晴らしいが、絶対的な個の存在がない。日本が世界で勝ち上がるためにはそこが足りない――と、海外のみならず、わたし自身もそう感じてきた。
サッカー選手の価値が明確に金額で表されるようになった現在、市場価値の合計値は下手をするとFIFAランキングよりもチームの強さを測る指標としての信頼性が高いかもしれない。
ちなみに、出場48カ国のうち、合計市場価値No.1を誇るのは約2827億円のフランスで、以下2529億円のイングランド、2269億円のスペインが続き、日本が初戦で引き分けたオランダは1402億円の8位だった。
日本は503億円の22位で、755億円のスウェーデンにもかなり後れを取っている。常識的に考えれば、金曜日の第3戦もスウェーデン有利とみる声が多くなければおかしい。
ところが、いささか浮かれ気味の日本人はもちろん、外国人、さらには当のスウェーデン人までが、市場価値で劣る日本の優勢を前提条件としているフシがある。
なぜこんなことが起きるのか。なぜ日本の選手は代表になるとクラブ以上の力を発揮するとみられているのか。
まず考えられるのは、日本選手の市場価値が、実力よりも低めに算出されている、ということだろう。残念ながら、日本産選手のブランド力は、和牛の域には達していない。買う側にしても、最高級の品を手に入れるというよりは、お買い得感に引かれている、という部分が確実にある。
ただ、わたしの考える日本代表の市場価値と実力にズレを生んでいる最大の要因は、居心地の良さ、である。
プレミアでプレーするイングランドの選手にとって、所属するクラブと代表、居心地がいいのはどちらだろうか。あるいは、ブンデスリーガでプレーするドイツ人にとっては?
日本人選手は違う。ずいぶんマシになったとはいえ、欧州ではさまざまな局面で差別や蔑視に直面する。尊重されるようになるまでに乗り越えなければならない壁も多い。文化や生活面での違いもある。
だが、代表に行けば、互いの尊重があり、何より、フラットな関係がある。実力よりは低めの価値をつけられている選手たちが、所属チームより居心地のいい環境でプレーすることで、普段以上の力を発揮する。ゆえに、市場価値と実力が比例しない状況が生まれている。
もっとも、それも今回のW杯が最後になるかもしれない。MLBでは村上や岡本の活躍で日本人長距離打者の価値が見直されている。これは、新シーズンの欧州で起きることでもある。
<この原稿は26年6月25日付「スポ-ツニッポン」に掲載されています>