大亀スポーツ振興財団では毎年、スポーツで優秀な成績を収めた愛媛県出身選手や、スポーツ界に貢献した県内の個人、団体を表彰している。12回目を迎えた今年度も5名の個人、3団体の受賞が決まり、14日に表彰式が行われた。国際レベルでの活躍をした選手、またはその指導者に送られるスポーツ大賞に輝いた柔道の中矢力選手ら、受賞者の横顔を紹介する。
(写真:財団の大亀代表理事(前列中央)と受賞者たち)
 スポーツ大賞の中矢選手は、言わずと知れた昨年のロンドン五輪の男子柔道73キロ級の銀メダリストだ。右ひじを痛めながらも最後まで勝負を諦めず、戦い抜いた姿は観る者の心を熱くさせた。そんな銀メダリストの原点と呼べる場所は伊予柔道会だ。ひとつ先輩には女子48キロ級で世界柔道を連覇した浅見八瑠奈選手もいる。得意の寝技は、ここで鍛えられた。

「柔道に対する気持ちが、すごく強い子で、どうすれば強くなれるか考えてやっていた。人一倍負けん気が強く、大きい相手にも向かう闘志があった」と同柔道会の河野誠司師範は明かす。今回の銀メダルで、中矢は世界の強豪からマークされる存在になる。「足取り」が全面禁止になるルール改正への対応も必要だ。

「筋力、体力を鍛え、勝てる柔道スタイルを作り、国際大会を勝っていく。リオデジャネイロ五輪では金メダル」と本人は決意を語る。ロンドンでは日本男子は初めて金メダルゼロの屈辱を味わった。名前のごとく、さらなる“力”をつけ、お家芸復活への旗手となる。
(写真:愛媛県では28年ぶりの五輪銀メダリストとなった)

 スポーツ選手やクラブの育成に携わり、青少年育成に貢献した指導者などを表彰する菜の花賞に選ばれたのは、2団体と2個人。株式会社ウエストコンサルタントが支援するウエストソフトボールクラブは、昨年の岐阜国体で3位入賞した愛媛県代表に10選手を輩出した。照明設備付きの練習場を整備し、平日はカクテル光線の下、仕事後の18時から選手たちは汗を流す。エースの客野卓也を軸に失点を最少に抑え、接戦で粘り勝つのがチームスタイルだ。クラブの西川広一代表は「勝ち負けは過程」と語り、「問題点をチェックし、次の試合に生かしていく。その繰り返しと継続が大切です」と一層の高みを目指している。

 株式会社今治.夢スポーツは、今治地区のスポーツクラブの運営母体として、支援活動を展開している。傘下に置くのは、男子サッカーの「FC今治」と、女子バスケットボール「今治オレンジブロッサム」。チーム運営の方針として「優秀な指導者の採用」「選手の働く場所の確保」「練習環境の整備」「高い目標を持っての公式戦への参加」「サポーターとの一体感づくり」を掲げ、地域に根ざしたクラブをつくろうとしている。

 昨年はFC今治が、天皇杯で昨季のJ1王者となったサンフレッチェ広島を破る大金星をあげた。またオレンジブロッサムが中心となった愛媛県代表も岐阜国体で3位に入るなど、成果をあげている。決して経済状況が明るくなく、さまざまな企業がスポーツ運営や支援から撤退を余儀なくされている中、地方の社会人クラブでも結果を残せることを示せた点は、県内の他のクラブにも好影響を与えるはずだ。

 スポーツクライミング指導の徳永信文さんは県内に十分な人工壁の施設がない中、環境整備に取り組んできた。国体の山岳競技は、ロープで体を固定して人工壁を登る「リード種目」と、ロープを使わない「ボルダリング種目」がある。ボルダリングは、高さ4メートルの壁を使い、リードでは15メートルの壁で競技が行われる。それまで松山市内にはリードの練習に打ち込める場所がなかった。徳永さんは昨年、市内の建築資材加工場を間借りし、リード用の高さ13メートルの壁を完成させた。現在は小中学生から一般の愛好者までが練習に励んでおり、昨年の国体では少年女子で坂本綾乃選手が出場するなど、その努力は芽を出しつつある。
(写真:長男の潤一さんも国体選手で、家族ぐるみで競技に力を注ぐ)

 ウェイトリフティング指導の真鍋和人さんは、ロサンゼルス五輪52キロ級の銅メダリスト。引退後は地元の一宮グループで、ウェイトリフティング部の監督として後進の指導に当たってきた。一昨年の山口国体では少年男子で権田達也選手が優勝するなど実績も残している。昨年からは小中学生を対象としたジュニア教室を開設しており、子どもたちの体力づくりや競技普及にも力を入れているところだ。実は自身もまだまだ現役で、昨年の全日本マスターズ大会では優勝。若手に自らの背中を見せ、愛媛のウェイトリフティング界を文字どおり持ち上げている。

 地域に根ざしたスポーツ活動を続けている団体や個人に贈られるふるさとスポーツ賞には大島弓友会と、河野雅行さんが選ばれた。大島弓友会は昨年で25回目を迎えた「能島水軍弓道大会」の運営に携わってきた。この弓道大会は、村上水軍の拠点として歴史のある能島(今治市宮窪町)を「能島水軍の里」としてPRすべく始まったものだ。「誰もが参加できる大会にして、とにかく弓を楽しんでもらおう」と枠にとらわれず、チーム出場などに制限は一切ない。賞品には大島石の盾に、巨峰(ぶどう)や水軍味噌、乾物など地元の特産品を贈呈。過疎化が進む島において、まちおこしにつながるだけでなく、弓道普及の上でも貴重なイベントとなっている。

 河野さんはサッカー指導者として、これまで多くの教え子を南宇和高へ送り込み、8名のJリーガーを育ててきた。「愛媛が全国で勝つには、小・中・高校の連携と、最先端の技術を吸収することが必要」と、年代、地域を超えた交流に力を入れ、南宇和高と地元の各中学校のチームが合同で練習するスタイルを構築した。地域をあげた育成は1990年の高校サッカーでの南宇和高の全国制覇となって実を結んでいる。70歳を過ぎた今も練習グラウンドの整備や指導の手伝いに顔を出しており、サッカーに対する情熱は誰にも負けていない。

 特別賞にはフリースタイルフットボールの徳田耕太郎選手が選出された。徳田選手は昨年9月に行われた世界選手権(イタリア・レッチェ)で初の日本人チャンピオンとなった。競技と出合ったのは中学時代。独学でテクニックを磨き、高校の文化祭では彼のパフォーマンスに感動した当時の校長が、体育館を練習に使うことを許可したほどだ。その後も練習用マットが擦り切れるほどの特訓を重ねた末、オリジナルの「Tokuraクラッチ」(空中に蹴り上げたボールをバック宙しながらヒザでキャッチする大技)を開発。今や世界中の選手が、この「Tokuraクラッチ」を真似するほどの存在になっている。本人はさらなる新技を考えており、今後もパイオニアとして多くの人たちを楽しませてくれるはずだ。
(写真:現在は大学生だが就職活動はせず、この道一本で人生を歩む考えだ)

 大亀スポーツ振興財団がスポーツ賞の表彰を開始して、ちょうど干支が一回りしたことになる。「愛顔つなぐ、えひめ国体」までは、あと4年。国体に向けた基本目標のひとつに「県民総参加で“えひめ”の底力を発揮する」とあるように、成功には各競技を開催する自治体、地元企業、住民が一致団結し、連携することが必要不可欠だ。これからも同賞は愛媛スポーツの発展に寄与している個人、団体を応援していく。

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(石田洋之)
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