「個か組織か」W杯最大の論争は振り出しに戻された
過去、W杯は大会ごとにさまざまな論争を生んできた。一過性のものですぐ鎮火したものもあれば、大会が終了しても、数十年が経過してもまだわだかまりを残すものもある。ただ、W杯における最古にして最大の論争は何かと問われれば、わたしの答えははっきりしている。
卓越した個人か、洗練された集団か――。
だが、永遠に答えなど出るはずがないと思い込んでいた論争に、今大会は明確な解答が示されつつあった。
メッシがいればアルゼンチンは勝てる。ケーンのおかげでイングランドも勝てる。ハーランドがいないからドイツは勝てなかったし、オランダもダメだった。チームとして素晴らしいまとまりを見せていたモロッコはエムバペに粉砕された。圧倒的な個の力が、これほどまでに多くの国で輝いた例をわたしは知らない。
結果として、わたしの中での論争はひとまず終結しようとしていた。おそらく、世界中のサッカーファンも、同様の思いを抱きつつあったのではないだろうか。
最後は、個が勝つ。最高のフィニッシャーを保持するところが勝つ。
ところが、固まりつつあった定説は、たった1つの試合によって揺さぶられた。スペイン対フランス。衝撃的だったのは、スペインが勝ったこと、ではなく、フランスが、エムバペが何もできなかった、ということだった。
スペインに個がいなかった、というわけではない。ヤマルとエムバペ。ともに市場価値は2億ユーロ(約370億円)程度とされているが、現時点でのフィニッシャーとしての完成度、危険度では間違いなくエムバペが上回っている。
だが、世界でもっとも危険なフィニッシャーでさえ、世界の代表チームの中でもっとも洗練された組織の前ではほぼ無力だった。
論争は、振り出しに戻された。ひょっとしたら全世界が卓越した背番号9の育成に注力することになっていたかもしれない未来は、ひとまず、混沌のまま続くこととなった。
日本人の一人としていささか複雑なのは、4年前、日本に逆転負けを喫した際のメンバーも残るスペインが、明らかに4年前よりも完成度を増していた、ということである。
確かにこの4年間で日本は強くなったが、スペインの伸びはそれ以上だった。ベスト32で敗退した原因を個の欠如に求め、心のどこかで「組織の面ではあまり問題なし」とみなしていた部分があったが、どうやら大間違いだったらしい。
日本は、W杯優勝を狙うには個人の力も足りなかったが、組織もまったく足りていなかった。
本田圭佑の立候補も話題になった次期日本代表監督問題は、大岩五輪監督があとを引き継ぐ形で決まりそうだという。先週も書いたように、せめて本田を選択肢の中に入れるだけで大きな話題になったはずで、この国にサッカーを染みさせていくことを考えると、このタイミングでの“発表”は、いささか惜しい気もする。
ただ、日本サッカー協会としては、森保監督が示した方向性やスタイルに相当な手応えを感じているということなのだろう。これはこれで、悪い決断ではない。
だが、世界一という目標を公言することで選手や国民の意識を変えた森保監督だったが、世界一になるためのサッカーはできていなかったし目指せてもいなかった。フランスを圧倒するスペインを目撃してしまっては、そう認めざるを得ない。
<この原稿は26年7月16日付「スポ-ツニッポン」に掲載されています>