第188回 ホンモノに囲まれて ~山の手甲子園~
6月6日土曜日の朝、国立オリンピック記念青少年総合センター(東京都渋谷区)の体育館には早くから大勢の人が集まっていました。この日、東京山の手ロータリークラブの40周年記念イベント「山の手甲子園」が開催されたのです。当日、私は主催者の一人である堀江泰さんを訪ねました。実施された競技は障がいのある人もない人も一緒にできる「ユニバーサル野球」です。堀江さんはこのユニバーサル野球を発明した堀江車輌電装株式会社の社長で、山の手ロータリークラブのメンバーです。

(写真:イベント主催者の1人、堀江泰さん)
会場は準備の真っただ中でした。マイクテストの音が聞こえてきました。
「一番、ライト佐藤君~」
なんと、北海道日本ハムの球場アナウンスの女性と、大学の野球部所属でリーグ戦のアナウンス担当の方が、いわゆる「うぐいす嬢」として、スタンバイしているのです。
熱心に打ち合わせをしている審判ユニフォーム姿の4人は、実際に野球の公式戦で審判を務めている方。
東京大学運動部応援団の学ランに身を包んだリーダーと、チアリーダーも準備中。
10時になると、「試合開始でございます」との声が響き渡りました。これは、スタジアムと同じ響き。
そして、審判による迫力の「プレーボール」。
すると一斉に応援団のリーダーとチアリーダーの大声援が聞こえてきました。
ホンモノたちに囲まれ、体育館はまさにスタジアムと化しました。
2試合目になると、さらに熱気を帯びてきます。見渡すと、それぞれ(勝手に)様々なプロ野球チームのユニフォームを着ている人の多いこと。球場に来ているような感覚なのでしょう。この人たちは、それぞれのチームのファン。応援も手馴れているわけです。そうです。ここにもホンモノがいたのです。
普段はリトルリーグ、定時制高校の試合の審判をしている方からお話を聞きました。
「ユニバーサル野球の審判は初めて。野球の審判として、まったく違和感はないです。でも次第に、どうやって『アウト』のコールでも盛り上げようかと考えていたんです。これは普段の審判のときとは違いますね(笑)」
このアウトのコールがとてもかっこよく、次第に選手も応援の人たちも、みんなで一緒に「アウト~!」と大合唱していました。
次に場内アナウンスの方にも。
「いろんな人が混ざってチームになっている。誰もが野球ができるのがすごいと思います。3回戦くらいから、名前をコールすると異常に盛り上がって、うれしいです。大谷翔平のコールをしているみたいで気持ちいいです」
応援団のリーダーはどうでしょう。
「試合中、いろんな人がいるし、もともとの応援のパターンもないから、最初はどうやって盛り上げようかと……。単純なコールを繰り返していたら、皆さん覚えてくれた。子どもたちも一緒に応援できて、うれしかったです」
ホンモノの皆さんの想いが、確実に参加した皆さんに届いていました。そしてホンモノに囲まれた参加者が、会場全体を熱くしたのです。熱心にホンモノの皆さんにお声がけして協力を求めた主催者の意図がよく伝わりました。

(写真:来場者に挨拶する天野会長<左>と堀江さん)
山の手ロータリークラブの天野純一会長は「すべての人が笑顔でいてくれて。賑やかで、とてもいい日になりました」と喜んでいました。堀江泰さんは「参加者は、同じ所属の人、個人で参加の人もいてバラバラ。そして年齢層も幅広く、チーム編成をどうしようかと。いろいろ考えるより、全部混ぜることにしました。大成功!」と満面の笑みでした。
4歳から80代まで、障害のある人もない人も、そして、ホンモノの皆さまも加えて総勢183名が、混ざってチームになって、勝ったり負けたり、喜んだり悔しがったり。まさにユニバーサルな一日になりました。
『ぼく、野球がやりたい ユニバーサル野球ができるまで』が絵本になりました。
参考:国立国会図書館リサーチ
https://ndlsearch.ndl.go.jp/books/R100000002-I034569496
<伊藤数子(いとう・かずこ)プロフィール>
新潟県出身。パラスポーツサイト「挑戦者たち」編集長。NPO法人STAND代表理事。STANDでは国や地域、年齢、性別、障がい、職業の区別なく、誰もが皆明るく豊かに暮らす社会を実現するための「ユニバーサルコミュニケーション事業」を行なっている。その一環としてパラスポーツ事業を展開。2010年3月よりパラスポーツサイト「挑戦者たち」を開設。また、全国各地でパラスポーツ体験会を開催。2015年には「ボランティアアカデミー」を開講した。2024年、リーフラス株式会社社外取締役に就任。著書には『ようこそ! 障害者スポーツへ~パラリンピックを目指すアスリートたち~』(廣済堂出版)がある。