開幕からの3試合は2勝1敗。13日のホーム開幕戦こそ敗れましたが、投打がかみ合い、いいかたちでスタートできたと感じています。14日の試合では元阪神の桜井広大が逆転3ランを放ち、元横浜DeNAの大原淳也も追加点のタイムリーを打ちました。元NPB選手が打線を引っ張ってくれています。
 投手陣では、この3試合、すべて新人に先発を託しました。開幕戦と14日は右腕の又吉克樹、13日は地元出身の田村雅樹です。

 又吉はサイドから力強いボールを放ります。これまでMAX144キロでしたが、14日の試合では147キロが出ました。10三振を奪い、開幕2連勝を収めています。これからもローテーションで経験を積ませることで、もっと成長してくれるでしょう。

 彼は、この秋のドラフト指名を狙える素材だとみています。そのためには、もうワンランク上を見据えた取り組みが大切です。具体的にはボールの精度を上げること。制球は悪いほうではありませんが、まだムダな四球が多いです。右打者に対してはどうしても肩の開きが早くなり、ボールが抜けるケースも見受けられます。スライダーも腕の振りが悪くなると曲がりが早くなり、バッターに見極められています。

 精度を高めるには、もっと下半身で粘るフォームに改良していくことが重要です。下半身が使えれば、肩の開きも抑えられますし、腕も振れます。スタミナはあるタイプですから、1年間、実戦の中でこの部分をレベルアップして、スカウトにアピールできれば、と考えています。

 一方の田村はデビュー登板ということもあり、緊張でかなり力んでいました。コントロールが持ち味のピッチャーが四球から崩れ、3回4失点。「打たれてはいけない」とコーナーを狙い過ぎ、自分でピッチングを苦しくしてしまいました。

 ただ、これも次につながる貴重な経験です。大胆に攻めるべきところと、慎重に行くところのメリハリをつける。長いイニングを投げ抜く上で大事なポイントを身をもって知ることができました。前回、紹介したように、彼には広島の野村祐輔のようなピッチャーになってほしいと期待しています。これからも、どんどん先発で投げてもらう予定です。

 当面は、この新人2人を先発のメインで使っていこうとプランを立てています。ここへ3年ぶりに公式戦のマウンドに戻ってきた篠原慎平、3月になって調子を落としていた2年目の渡辺靖彬が加われば、先発の枚数は揃います。両新人の頑張りは他のピッチャーにとって大きな刺激になっていることは間違いありません。

 中継ぎでは広島から育成選手の永川光浩が加わりました。彼は昨年、徳島に派遣されており、相手ベンチからピッチングを何度も見ています。確かにいいボールは投げるのですが、カウントが悪くなると置きに行くような投げ方をしているのが気になっていました。

 その一因となっているのが、ステップ幅の狭さ。188センチの長身にもかかわらず、ステップが6歩と狭いため、どうしても腰高になり、リリースポイントが安定しないのです。そこで彼にはステップを1歩広げて投げるようにアドバイスしてみました。この微調整は本人もしっくりきたようで、開幕からの2試合はまずまずのピッチングを見せています。サウスポーはアイランドリーグでもNPBでも貴重な存在です。永川には同じく左腕の後藤真人とともにフル回転してほしいと感じています。

 もうひとりブルペンには韓国人右腕のチョン・ヨンイルを補強しました。MAX155キロのストレートが持ち味です。ただ、現状は3月に足を肉離れした影響で、まだ本調子ではありません。また体重が100キロを超え、ややシェイプアップが必要です。上体の力で無理にかつぎ投げをするのではなく、柔らかい腕の振りから、リリースの瞬間にピッと力が伝わるような投げ方へ徐々に変えていければと考えています。

 オフのヒジ手術で出遅れていた大場浩史も、ブルペンで5、6割の力では投げられるようになってきました。現状は5月の実戦復帰を目指しています。5月は31日間で18試合と連戦も続きます。前期シーズンの行方を決めるのは5月と言っても過言ではありません。この時期に全員が揃って、いい状態に持っていけるよう、ひとりひとりとコミュニケーションをとりながら、調整とトレーニングを重ねていこうと考えています。
 
 野球で最終的な決め手になるのは投手力です。最少失点に相手を抑えれば、打線の援護はある程度、期待できます。投手陣を整備して、1戦1戦、確実に勝ちに行きます。5月はホームゲームが10試合組まれ、18日には岡山でも公式戦が開催されます。ぜひ、たくさんの応援をよろしくお願いします。


伊藤秀範(いとう・ひでのり)プロフィール>:香川オリーブガイナーズコーチ
 1982年8月22日、神奈川県出身。駒場学園高、ホンダを経て、05年、初年度のアイランドリーグ・香川に入団。140キロ台のストレートにスライダーなどの多彩な変化球を交えた投球を武器に、同年、12勝をマークして最多勝に輝く。翌年も11勝をあげてリーグを代表する右腕として活躍し、06年の育成ドラフトで東京ヤクルトから指名を受ける。ルーキーイヤーの07年には開幕前に支配下登録されると開幕1軍入りも果たした。08年限りで退団し、翌年はBCリーグの新潟アルビレックスBCで12勝をマーク。10年からは香川に復帰し、11年後期より、現役を引退して投手コーチに就任した。NPBでの通算成績は5試合、0勝1敗、防御率12.86。
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