いよいよ、今シーズンも13日に開幕しました。富山サンダーバーズは開幕で信濃グランセローズに2−5で敗れ、白星スタートとはなりませんでしたが、翌日の信濃戦で初勝利を挙げました。しかし、そこから勝利を挙げることができていません。24日現在、1勝2敗1分け。いい時と悪い時との差が、少しあるかなと感じています。
 初勝利を挙げた信濃戦で先発したのは、2年目の高塩将樹(藤沢翔陵高−神奈川大−横浜金港クラブ)です。その日は強風でピッチャーにとっては変化球のコントロールが難しいこともあったのか、球審が高めを広めにストライクにとってくれていました。高塩は正直、状態自体はそれほど良かったわけではないのですが、球審のジャッジをうまく利用してまとめることができた結果が、6回1安打無失点という好投につながったのだと思います。

 しかし、2試合目の登板となった20日の福井ミラクルエレファンツ戦は、5回12安打8失点を喫しました。信濃戦との違いは、バッターに有利なカウントになりそうな時に、ストライクを取れたか否か。今後はその差をうめていく作業が必要となります。

 高塩は、オフからオープン戦にかけて、肉体的にも技術的にも成長の跡が見てとれます。初勝利を挙げた信濃戦で状態が悪い中でも、きちんと試合をつくったことも、そのひとつです。今季はエースとして先発の柱となってもらいたいたいと思っています。そのためにも、シーズンを通してコンスタントに現在の球威を保つことができるか。昨季見えたその課題を克服できるかどうかがポイントです。今後、暑くなってからが、高塩にとって正念場となります。

 昨オフ、信濃から移籍してきた大竹秀義(春日部共栄高)ですが、ボール自体は期待通りですが、メンタル面に課題があります。マウンド上で熱くなりやすいところがあるのです。最後を締めくくるクローザーは、常に大きなプレッシャーがかかります。その中で、いかに冷静でいられるかどうかは非常に重要です。技術的には十分の大竹に、メンタルの面においての成長が加われば、さらにレベルアップすることでしょう。

 開幕直前にはプロ野球、メジャーリーグで活躍した37歳ベテランの大家友和(京都成章高−横浜−レッドソックス−エクスポズ−ナショナルズ−ブルージェイズ−インディアンス−横浜)が加入しました。再起をかけてナックルボーラーに転向した大家ですが、やはり“魔球”を使いこなすことは、そう簡単ではありません。20日の信濃戦でBCリーグデビューを果たした大家は、2回を投げて3安打3四球1失点でした。バッターの手元で自在に変化するナックルボールですから、ある程度の四球の数は予想していました。

 しかし、やはり1、2球目でストライクが取れないと、その後のピッチングが苦しくなります。大まかにでも意図したところにボールが投げられるようになれば、ナックルボーラーとして成功する可能性は広がるはずです。日本のプロ野球にはいない新しいスタイルですから、ぜひ第一人者となるような活躍をしてほしいですね。

 「2番・捕手」杉本の活躍

 一方、打線はというと、大黒柱はコーチ兼任としてチームに復帰した野原祐也(大宮東高−国士舘大−富山−阪神)です。その野原の前にランナーを出したいという狙いから、開幕戦は1番・有澤渉(高岡商業高−日本体育大−きらやか銀行)、2番・生島大輔(大阪桐蔭高−早稲田大−JR東日本)、3番・松本哲郎(桐光学園高−法政大−日立製作所)としました。しかし、ほとんどチャンスをつくれなかったのです。

 そこで翌日、1番・駒井昌之(博多高−常盤大−ヒタチエクスプレス−長崎セインツ)、2番・杉本昌都(水戸短期大学附属高−横浜<育成>−三重スリーアローズ)、3番・有澤と替えたところ、この3人がうまく機能し、3回を終えて5−0と優位に試合を進めることができました。

 特に、予想以上の活躍をしてくれたのが杉本です。正直、キャッチャーかつバッターとしてもタイプ的に2番とは言えない彼をその打順に据えたのは、ひとつの賭けでもありました。ところが、チームの中で最も右方向へ打つ技術のある杉本がチャンスを広げる活躍を見せ、予想以上にはまってくれたのです。4試合連続ヒットが出ている杉本は現在、14打数7安打3打点、打率5割をマークしています。

 守備の方はというと、杉本は昨季、本職のキャッチャーというポジションから離れていたので、多少なりとも心配していたのですが、それは今のところ杞憂に終わっています。配球に対しても勉強熱心で、何か少しでも吸収しようという貪欲さが伝わってきます。それがバッティングの成績にもいい影響を与えているのかもしれません。

 逆に貪欲さに欠けていたのは、青木将崇(全川崎クラブ)です。オープン戦で気の抜けたプレーを繰り返し、バッティングも「それでは、打てるはずがない」というような三振をしたりしていました。そこで一度、「そんなプレーばかりしているのなら、メンバー表からオマエの名前を消すぞ!」と喝を入れました。すると、この言葉に危機感を感じたのでしょう。その後は、ボールに必死に食らいつくようになり、結果も出し始めたのです。未だにミスはあるものの、それは一生懸命にやった結果。オープン戦のように怠慢プレーでのミスはなくなりました。

 復調が待ち遠しい有澤&野原

 一方、昨季は1年目ながら首位打者に輝いた有澤は、いい状態とは言えません。実は、キャンプの時から彼には物足りなさを感じていました。全てのプレーにおいて、必死さに欠けているように見えたのです。さらに、オープン戦から技術的なことで繰り返し同じことを言い続けてきていたのですが、シーズンに入っても修正する気配が見えませんでした。そこで20日の福井戦、2打席目で三振を取られてベンチに返ってきた有澤に、厳しくその部分を指摘したのです。さすがに彼も何かを感じ取ったのでしょう。その後の2打席では、連続でヒットを放ちました。試合後、野原にも「以前のいい感覚が戻ってきたような気がします」と言っていたそうです。この試合がいいきっかけになってくれることを願っています。

 阪神を戦力外となり、チームに復帰した野原ですが、状態は上がっておらず、13打数2安打で未だに打点を挙げていません。しかし、彼のミート力やバットスイングの速さは、間違いなくトップクラス。調子の良し悪しにかかわらず、彼は打線の大黒柱となるべく存在だと考えています。

 不調の原因は、コーチを兼任しているという責任からくることかもしれません。指導する立場として、自らも結果を出さなければいけないという思いが強いのか、気持ちが空回りしているように見えます。いつもなら「どうぞ、投げていらっしゃい」とでもいうように、しっかりとボールを呼び込むところを、「打たなくちゃ」という焦りからポイントも前になっているのです。今後の復調に期待したいところです。

 昨シーズン、チームの課題のひとつとして挙げたのが“140キロの壁”です。140キロ以上のボールに対して「力負けしないように」という気持ちが強過ぎて、体に力みが生じ、動きにキレが失われてしまうのです。今シーズンもオープン戦の後半以降、相手ピッチャーに球威が出てきてから、また壁にぶつかり始め、まだ攻略することができていません。

 対策のひとつとしては早めにバットをトップの状態にもっていくこと。しかし、誰もがこれまでやってきた“間合い”というものがありますから、それをかえるのは簡単なことではありません。練習ではできても、いざ試合となると、やはり自分の間合いに戻ってしまうのです。それでは、やられっぱなしでシーズンが終わってしまうことでしょう。いかに早く“140キロの壁”を越えられる“間合い”を自分の体に染みこませるか。チームの課題として取り組んでいきたいと思っています。


進藤達哉(しんどう・たつや)プロフィール>:富山サンダーバーズ監督
1970年1月14日、富山県高岡市出身。高岡商では1年夏、3年夏に甲子園に出場。1988年、ドラフト外で大洋(現・横浜)に入団。5年目からレギュラーに定着し、98年の38年ぶりとなるリーグ優勝および日本一に大きく貢献した。97〜99年には3年連続でゴールデングラブ賞を獲得。01年、交換トレードでオリックスに移籍し、03年限りで現役を引退した。翌04年には横浜の内野守備コーチに就任。08〜09年は同球団でスカウトを務めた。2010年に富山の守備コーチとなり、12年からは監督として指揮を執る。
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