伊藤花乃(早稲田大学フェンシング部/愛媛県松山市出身)第3回 走り高跳びで鍛えた脚力
伊藤花乃が小学5年時に「えひめ愛顔(えがお)のジュニアアスリート発掘事業(以下、ジュニアアスリート)」がスタートした。

ジュニアアスリートについて、公式サイトから引く。
<この事業は、科学的な手法を用いてスポーツの潜在的な才能を有する県内の小中学生を発掘し、中学3年生までの期間、育成・強化することにより、将来、国際大会で活躍する日本代表選手を愛媛県から輩出することを目指すとともに、将来の愛媛県スポーツ界の指導者となり得る人材を養成することを目的としています。本事業は、日本スポーツ振興センターが提唱する地域タレント発掘・育成事業との連携・協働体制「ワールドクラス・パスウェイ・ネットワーク」の組織体制の中で進めてまいります>
きっかけは「小学校の体育の先生に“応募してみる?”と声をかけていただいたこと」と伊藤。ジュニアアスリートのメンバーは、小学校のスポーツテストの成績、実技テストを経て選抜される。伊藤は見事合格し、ジュニアアスリート1期生となった。
ジュニアアスリートの活動は、毎週土曜日だった。伊藤は、活動の中で「コオーディネーショントレーニングが楽しかった」という。
コオーディネーショントレーニングとは、平たく言えば、運動神経を高めるためのトレーニングだ。脳を鍛えることで、運動に関する神経回路を構築するのが狙い。リズムに合わせて体を動かしたり、ジャンプやケンケンパー、片足で立ってバランスを取る、といった動作が主なメニューだ。
日本のメディアでは「コーディネーショントレーニング」と表記されることがしばしばだが、英字だと「Co-ordination Training」と表記される。
親から譲り受けた身体能力や運動神経の良さに加え、コオーディネーショントレーニングに取り組むことで、どのスポーツにも対応できるしっかりとした土台を築いた。
伊藤は、ジュニアアスリートの活動を、こう振り返った。
「高評価プログラムというものがありました。1度、体験会に参加して、そこで指導者から高評価を得ると、もう少し専門的に教えてもらえるプログラムに選抜されるんです。印象に残っているのは、ラグビー。体験会でラグビーに必要な動きや知識は教えてもらっているので、ゲーム形式の練習に参加したことがありますが、楽しかったです」
Jrアスリートからフェンサーに
実技とは別に「栄養学の講座も楽しかった」という。座学で栄養学を学んだ後に、実際にビュッフェ会場に行き、アスリートに必要な栄養素を考えて、バランスよくプレートに料理を並べられるか。そんなテストもあった。「各自、食事をとってきて、栄養士の先生にアドバイスを受けました。私も私の友人たちも、出来は良かった覚えがあります」
2013年4月、松山市立余土中学校に進学した伊藤は、ジュニアアスリートの活動を継続しつつ、部活は陸上部を選択した。中1の頃は短距離、中2では走り高跳びを専門とした。
「あとになって思うと走り高跳びのトレーニングがフェンシングにいきていると思っています。高跳びの踏切りは左足でした。私は、フェンシングの後ろ足を左足にしています。相手の懐に飛び込むアタックを仕掛ける時の脚力は、高跳びをやっていたおかげかな、と」
学校では陸上部員として練習に励んでいた伊藤が、ジュニアアスリートの活動でフェンシングに出会ったのは中2の冬だった。「11月か12月だったと思います。ニンジニアスタジアムでのフェンシング教室に参加したのが、初めてでした」
しかし、この時は「あんまり楽しいと思わなかった」と苦笑まじりに、続けた。
「ジュニアアスリートのスタッフさんに“フェンシングのコーチから高評価が来ているよ”と教えてもらっても、興味がわかなかったんです」
再び、伊藤。
「“行ってみなよ”とスタッフさんに背中を押されて高評価プログラムに進んだのですが、(会場に向かう)足取りは重たかった気がします。しかし、何度かフェンシングに取り組むうちに、うまくできるようになって、少しずつ“楽しいな”と思えるようになってきた。
私がフェンシングで高評価をもらった時、ちょうど国(JOC)がフェンシングを強化しようと動いていた時期でした。愛媛がその指定の都道府県だったみたいです。そんなふうにタイミングが重なったので道具も一式、支給されたり、気が付いたらフェンシングのクラブチームができていたり……。辞める機会がなかったのかもしれない(笑)」
中学3年から愛媛フェンシングクラブに加わった。坊っちゃんスタジアムのスポーツフロアが活動拠点だった。ヒップホップダンスで養ったリズム感(第2回参照)と走り高跳びで鍛えた脚力を武器に、めきめきと腕を上げた。3年の冬、彼女のもとに朗報が舞い込んだ。
(最終回につづく)

<伊藤花乃(いとう・かの)プロフィール>
2004年、愛媛県松山市生まれ。小学5年時、えひめ愛顔(えがお)ジュニアアスリート発掘事業の対象選手に選抜され、さまざまスポーツを経験する。中学2年時からフェンシングを始める。中学3年時、世代別(U-17)日本代表に選出された。高校2年時の総体で女子個人サーブル3位。2023年、早大フェンシング部に入部。現在は部の女子チーム主将を務める。
(文/大木雄貴・写真/杉浦泰介)

