今季も日本人メジャーリーガーたちの活躍が海の向こうから次々と届いています。特に投手陣は好調ですね。今季初登板のアストロズ戦で、あと1人で完全試合達成という快投を見せたダルビッシュ有(レンジャーズ)をはじめ、チームの先発ローテーションにしっかりと入っている黒田博樹(ヤンキース)、岩隈久志(マリナーズ)、そしてリリーバーではレッドソックスの“勝利の方程式”を担う上原浩治と田澤純一、さらに今季メジャー1年目の藤川球児(カブス)……。日本のメジャーファンにとっては、みどころがたくさんあるシーズンとなっていますね。
 今季初登板で確信した活躍

 さて、今回はそのうちの2人、岩隈投手と上原投手について、今季の調子の良さがどこにあるのかを話したいと思います。まずはメジャー2年目の岩隈投手ですが、周知の通り、彼はもともとコントロールのいい投手です。特に低めへのコントロールは抜群。沢村賞に輝いた2008年には28試合に先発登板し、被本塁打がわずか3本だったことが話題となりましたね。

 それでもメジャー移籍1年目の昨季は、さまざまな環境の違いに苦戦し、なかなか結果が出ませんでした。しかし、後半からは岩隈らしいピッチングが見られるようになりましたね。それを今季まで継続させているというのは、さすがです。今季は開幕から自分の思うように投げられていますね。ストレートと同じ高さからフォークボールがストーンと落ちるわけですから、打者にとっては見極めるのに非常に苦労していると思います。

 今季初登板となった4月3日のアスレチックス戦、岩隈は6回をわずか2安打に抑え、本塁打の1点に抑えて白星を挙げました。フォークボールが面白いように決まっているこの試合を見て、私は今季の岩隈の活躍を確信しました。

 今月21日のインディアンス戦は6回を投げて7安打5失点。珍しく2本の本塁打を浴びました。しかし、長いシーズン、常に調子がいいというわけにはいきません。こういう試合もあると思います。逆に私はこの試合、岩隈のピッチングがどうのというよりも、改めてメジャーのレベルの高さを見せつけられた思いがしました。岩隈のコメント通り、2本の本塁打は、やはり少し甘く入った球だったと思います。それを見逃さずに、スタンドに運ぶメジャーリーガーの強打者たち。メジャーとは、ほんの少しでも隙を見せれば、そこをすかさず突いてくる、そういう厳しい世界なのです。

 今季の岩隈には特に問題点は見当たりません。ケガだけが心配ですが、普段から自分のコンディションを気にかけている岩隈投手ですから、十分なケアをしていることでしょう。チーム事情が絡んではくるものの、今季は2ケタはかたいでしょう。15勝以上はできるのではないかと期待しています。

 リリーバーとしての自信とやりがい

 一方、メジャー5年目となった上原投手ですが、現在は貴重なセットアッパーとして20試合に登板し、防御率1.93というずば抜けた安定感を見せています。私が見る限りにおいては、上原投手は今季が一番いい状態ではないでしょうか。昨季まではリリーバーとして試行錯誤の部分が見えていたのですが、今季は非常にメリハリが出てきており、はじめから思い切って勝負できているような気がします。

 その要因はリリーバーとして自信をもって投げられているからではないかと思います。その自信の表れはフォークボールにあります。昨季まではフォークでかわそうという意識が見えていたのですが、今季はフォークで勝負にいっていると感じられるのです。そのために昨季までは真っ直ぐとフォークが、腕の振りによって打者に反応されているように感じられたのですが、今季はストレートと同じくフォークも迷いなく腕が振れているので、打者にとっても見極めが難しくなっているのです。

 上原投手はもともと先発投手。大学時代からエースとして活躍していました。その上原投手がメジャー移籍以降、リリーバーとしてやっていくには、難しさもあったことでしょう。リリーバーの一番の難しさは、短いイニングの中で何度もメンタルを切り替え、メリハリをつけなければいけないというところです。それが上原投手もわかってきたのでしょう。

 そして、それ以上に自分のピッチングによって勝敗の流れをどちらにでも転がすことのできるというリリーバーの楽しさ、やりがいが感じられるようになってきたのではないかと思うのです。きっちりと抑えてベンチに戻り、チームメイトとハイタッチする上原投手に、そんな気持ちが垣間見られます。

 現在、レッドソックスはアメリカンリーグ東地区でヤンキースに1ゲーム差の2位につけています。4年ぶりのプレーオフ進出、そして6年ぶりのワールドシリーズ優勝に上原投手は欠かすことができない存在です。岩隈投手同様、ケガなく、活躍してほしいですね。

佐野 慈紀(さの・しげき) プロフィール
1968年4月30日、愛媛県出身。松山商−近大呉工学部を経て90年、ドラフト3位で近鉄に入団。その後、中日−エルマイラ・パイオニアーズ(米独立)−ロサンジェルス・ドジャース−メキシコシティ(メキシカンリーグ)−エルマイラ・パイオニアーズ−オリックス・ブルーウェーブと、現役13年間で6球団を渡り歩いた。主にセットアッパーとして活躍、通算353試合に登板、41勝31敗21S、防御率3.80。現在は野球解説者。
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