プロ野球では交流戦の全日程が終了し、21日からはペナントレースが再開しました。今年の交流戦の覇者は福岡ソフトバンクでした。2位以下を見てみると、東北楽天、巨人、千葉ロッテ、オリックス、北海道日本ハムと、上位6チーム中5チームをパ・リーグが占めました。率直な感想を述べれば、昨年までと同じく、どんどん勝負しにいくパ・リーグのピッチャーに対して、セ・リーグのバッターが受け身になっていたように思います。パ・リーグはピッチャーを中心とした守りが安定していたからこそ、攻撃にも勢いがあったのでしょう。
 なかでも一番の勢いを見せたのが、2年ぶりに優勝したソフトバンクでした。交流戦前はなかなかチームがかみ合っていませんでしたが、交流戦に入ってようやく“ソフトバンクらしい”展開の早い野球が見られるようになりましたね。もともと力のあるチームですから、交流戦をきっかけに、まとまり始めた感じがしています。

 特にクリーンナップの3人、内川聖一、松田宣浩、長谷川勇也は交流戦の打率ベスト3を独占し、まさにチームの柱としての働きをしていましたね。そのなかでも5月末から4番に座る松田の存在は大きいと思います。もともとチャンスに強いバッターですから、彼を軸にすることによって、周りの選手が「松田につなげばいい」という気持ちになることができているのです。また、たとえ負けても気持ちの切り替えの早い選手ですから、崩れる心配がありません。ですから、安心して4番を任せることができているのでしょう。

 その3人の中でも交流戦で最高打率(4割1分8厘)をマークしたのが、長谷川でした。彼の能力の高さは誰もが認めるところで、私自身は一昨年あたりから「この選手、一皮むけたら面白い存在になるだろうな」と密かに期待していた選手でした。これだけの成績を残せているのは、以前のようにボールを追いかけることなく、自分のタイミングやポイントで打てるようになっているからです。今後、ますます楽しみですね。

 “個人”から“チーム”となったオリックス

 交流戦2位の楽天ですが、やはりエース田中将大の力が大きいことは否めません。彼は年々、ピッチングにメリハリが出てきていますね。ピンチの場面でもすぐに切り替えて冷静になれるので、余裕が生まれているのです。一方、打線はというと、個々の選手が背伸びをしなくなりましたね。まだムラはあるものの、それぞれができること、やるべきことに徹している感じがします。そのひとつに、チャンスだからと言って、大振りしなくなったことが挙げられます。インサイドのボールを無理やり引っ張ったりせず、素直に打ち返している。だからこそ、打線がつながり、タイムリーが出ているのです。

 交流戦では優勝こそ逃したものの、ペナントレースでは現在パ・リーグの首位を走っているのがロッテです。開幕前、ロッテの評価は決して高くありませんでした。私自身も最下位と予想していたのです。では、何が好調の要因となっているのでしょうか。一番に挙げたいのは、新しい顔ぶれとなった首脳陣です。伊東勤監督をはじめ、先入観で選手を見るのではなく、直接自分の目で見て、いい選手にはしっかりとチャンスを与えている。これが西野勇士にしろ、鈴木大地にしろ、チームを勢いづけるような新しい選手が出ている要因となっているのです。

 また、今季のロッテのピッチャーに感じるのは、自分自身を疑うことなく、強気で、そして全力で投げているということです。これもまた、伊東監督の手腕によるところなのでしょう。伊東監督が言っていたのは、「常にベストを尽くしているかどうかをチェックしている」ということでした。伊東監督はしっかりとプロセスさえ踏んでいれば、結果うんぬんは問いません。それよりも試合に臨む姿やベンチにいる時の姿勢などを重視しているのです。だからこそ、途中出場の選手がパッと活躍できるのです。

 開幕前、評価が高かったのがオリックスですが、交流戦前はなかなか波に乗れない状態でした。その要因のひとつには、やはりエース金子千尋の不調があります。金子はハマった時には素晴らしいピッチングをするのですが、投げ合いにもろさがあり、特に近年はもうひとつ集中力がないように感じられます。ここぞという勝負どころでボールが高めに甘く入り、痛打されるのです。まずはそこを改善しない限り、以前のような活躍は厳しいと思います。

 強打者が揃う打線はというと、交流戦前は正直、ぞれぞれの選手が「オレが、オレが」という意識が強過ぎていました。自分で決めようとしすぎて、打線のつながりがなかったのです。しかし、交流戦ではチームとして機能し始め、長打でドカンという攻撃ではなく、つながりの中でのタイムリーが増えました。ペナントレースでも、チームとしての野球ができれば、オリックスが上位に進出してくる可能性は非常に大きいと思います。

 チーム状態に明暗の巨人と阪神

 一方、セ・リーグはというと、交流戦を終えて巨人と阪神の“2強”の様相がさらにはっきりしました。この2チームが、このまま優勝争いをする可能性が高くなってきていますが、それでも巨人と阪神とではチームの状態は違います。上り調子の巨人に対して、阪神は徐々に下降気味となっています。

 一時、セ・リーグの首位に躍り出た阪神でしたが、ここにきて巨人に少しずつゲーム差をつけられています。要因のひとつは、切り込み隊長である西岡剛が疲労からなのか、出塁率が下がってきていることが挙げられます。そこで必要なのが、下位打線による得点能力アップなのですが、なかなか頼りになる選手が出てきません。本来であれば、やはり新井良太に頑張ってもらいたいところなのです。

 新井良が思うような結果を残せない理由は、しぶとく自分のポイントまで我慢することができないからです。結果を出そうという焦りもあるのでしょうが、いろいろなボールに手を出し過ぎて、難しいボールまで追いかけてしまうのです。今後、新井良が復調してくるか否か、阪神にとっては非常に大きいことでしょう。

 現在、首位を走る巨人は交流戦の半ばには5連敗という時期があったものの、そこから見事にチームを立て直してきましたね。その要因のひとつは、やはりキャプテンでもあり主砲でもある阿部慎之助が結果を出し始めたということが挙げられるでしょう。やはり彼が元気でないと、チームは盛り上がりませんからね。そのほか、投手陣では内海哲也や沢村拓一が復調し、そして野手ではベテランの小笠原道大にヒットが出始めていますし、高橋由伸も一軍に帰ってきました。投打ともに、巨人の真の実力が出始めてきたというところでしょう。

 さて、今後の展開において混戦模様を呈しているパ・リーグの最大の注目どころは、首位のロッテです。勢いのある今、話題となっている元メジャーリーガーのマニー・ラミレスを獲得すれば、優勝する可能性はさらに大きくなることでしょう。とはいえ、ウィークポイントがないわけではありません。それは打線です。実は、「ここであと1点が欲しい」「この場面で追いついておきたい」というところで、タイムリーが出ていないのです。それでも最後まで諦めない姿勢がチーム全体に浸透しており、終盤に得点して勝ち切っているからこそ、今の成績があるのです。つまり、決して試合巧者ではないですし、試合自体を支配したうえで勝っているわけではないのです。そのロッテが、今後はどういう勝ち方をしていくのか、非常に興味があります。加えて、打線が機能してきたオリックスも、旋風を巻き起こしてほしいなと思っています。

 セ・リーグは、やはり今後も2強4弱の可能性が高く、見どころとしては、阪神が巨人をどこまで苦しめられるかというところでしょう。ただ、阪神は巨人のような盤石のチーム状態という感じではありませんn。それだけに、早めに自分たちの勝ちパターンを固定させることが、阪神にとっては重要です。もちろん、他の4チームにも2強4弱体制を崩して、パ・リーグに負けないペナントレースを見せて欲しいですね。

佐野 慈紀(さの・しげき) プロフィール
1968年4月30日、愛媛県出身。松山商−近大呉工学部を経て90年、ドラフト3位で近鉄に入団。その後、中日−エルマイラ・パイオニアーズ(米独立)−ロサンジェルス・ドジャース−メキシコシティ(メキシカンリーグ)−エルマイラ・パイオニアーズ−オリックス・ブルーウェーブと、現役13年間で6球団を渡り歩いた。主にセットアッパーとして活躍、通算353試合に登板、41勝31敗21S、防御率3.80。現在は野球解説者。
◎バックナンバーはこちらから