“五輪登竜門”に挑む若武者たち ~柔道~
大学日本一を決める「ALSOK presents 2026年度 全日本学生柔道体重別選手権大会」(全学体重別)は9月26、27日の2日間、東京・日本武道館で行なわれた。歴代優勝者には斉藤仁、古賀稔彦、吉田秀彦、井上康生、鈴木桂治、ウルフアロン、塚田真希、松本薫、田知本遥、出口クリスタらオリンピック金メダリストが名を連ねる。今回はオリンピックの登竜門に出場した注目の大学生柔道家4人を紹介する。
「特別なモノを持っている」
まず1人目は天理大学2年の平野匠啓(ひらの・しょうけい)。男子100kg級で全日本柔道連盟のB強化選手。中学・高校で全国優勝を経験したエリートである。埼玉栄高時代には、2年時から全国高校総合体育大会(インターハイ)で同級2連覇。昨年の世界ジュニア柔道選手権大会では銀メダルを胸に飾った。この9月には全日本ジュニア体重別選手権大会で優勝した。
天理大の山本悠司監督が「別格」と太鼓判を押すほど、その才能は光っている。
「入学当時は、線が細く、100kg級としては、まだ高校生だなという身体付きでした。しかし今は、力もだいぶ付いてきました。技の入るタイミング、“ここだ”という勝負どころを掴む力が、人より優れているので、もっとフィジカルや体力が付いてきたら、オリンピックや全日本選手権を狙える選手。本当に特別なモノを持っていると思います。既に講道館杯を獲れる力はある」
187cmの長身から繰り出す、切れ味鋭い内股が武器である。平野が小学生の頃から磨いてきた“伝家の宝刀”は、前監督の穴井隆将氏(現・師範)も得意とする技だ。階級、身長、得意技も同じ穴井氏には、今も指導を仰いでいる。
「大学で穴井先生と出会い、切れる内股になってきたと思います。自分は正面で内股に入っていたんですが、右に回りながら相手の重心移動を利用して掛ける内股を教えていただきました。穴井先生に教わったことを実践すると、簡単に相手を投げられるようになるんです」
再び山本監督。
「決して穴井先生の内股をコピーしているわけじゃなく、アドバイスをもらうことで彼の内股の中に足りないものを補っていった。内股のバリエーション、知識は確実に広がっていると思います。一発で決める内股と、ケンケンタイプはどちらもできます。どちらかというと、ケン、ケン、ドンという内股が多い。スパーンと入る内股も少しずつできるようになってきた。そのパターンをうまく使い分けられれば、戦い方の幅は広がるし、相手にとって怖い選手になれる」
ポテンシャル十分の20歳。前途洋々である。
天理の柔道
平野の天理大2年先輩にあたる山村洸斗(やまむら・ひろと)は、今年度から主将を任されている。全学体重別では男子90kg級の2連覇がかかっていた。「昨年は勢いで優勝した。今年は昨年とは別物。尼崎の体重別団体があるので、それに繋げるためにも優勝しないといけないという強い気持ちでした」。前年王者、天理大の主将としてのプライドを持って臨んだのだ。
天理大の主将は、4年生から挙がった候補を監督が承認する方式で決まる。
「山村が主将になることはみんな承知の上だったと思う。僕もそうあるべきだと考えていました。彼は泥臭くても気持ちを出し、しぶとく最後まで戦い抜ける。人間性の部分が柔道に表れている。だからこそ彼が、人の上に立つべきだと思っています」
山村自身も、主将を経験したことにより、成長を実感している。
「最初は稽古の時に“自分が、自分が”となって、まわりが見えなくなることがあった。自分とチームの2つを両立することが難しかった。監督にもよく怒られました。『チームを日本一に導きたいんやったら、(オマエが)引っ張っていかないとダメだぞ』と。主将の経験したことによって、メンタルの強さが身に付いたと思っています」
自身の柔道家としての強みを「技を持っていて、投げて勝てるタイプ。理想は大野(将平)先輩や丸山(城志郎)先輩のように、二本を持って、一本を取ることが理想です」と語る。彼の言う「二本を持つ」とは、引き手と釣り手の両手で相手の道着を掴み、完全に支配した状態で技を仕掛けることだ。二本持って勝つ――とは天理柔道の伝統と言っていい。
山村は今後に向け、抱負を述べた。
「目標は団体戦2つ(全日本学生優勝大会と全日本学生体重別団体)、個人戦(全学体重別)の3冠達成が目標でした。6月の優勝大会は負けてしまったので、残り2つを何としてでも獲りたい」
感情のコントロール
ポストが人を育てる――。山村同様、主将の経験を成長の糧としたのが3人目に紹介する環太平洋大学4年、女子57kg級の荒川清楓(あらかわ・さやか)だ。
「最初は、チームをまとめるのが本当に難しかった。1学年上の石岡(来望=昨年度主将)先輩や椋木(美希=昨年度副将)先輩たちが、いつも引っ張ってくれていた。先輩たちと自分を比べてしまい、“うまくいかないなぁ”と悩む時期がありました」
彼女にとって、それだけ昨年度の団体戦2冠を達成したリーダー陣の背中は大きかった。
以下は環太平洋大の矢野智彦監督による荒川評。
「昨年は2冠だっただけにプレッシャーを感じていたと思います。主将になったことで彼女自身が成長し、チームに掛ける言葉や行動、態度が変わってきた。チームのことを第一に考え、自分のことを客観的に見られるようになった。それまでは自分中心で、うまくいかない時は表情に出ることがありました。主将という責任感が、自分を客観視できるようになり、勝負強さも身に付けた。どの技、どの組手でいけば勝率が上がるかがわかるようになってきたんです。団体戦でもポイントを取ってくれた。冷静に戦えるようになってきましたね」
「感情のコントロールが、だんだんうまくなってきた」とは本人。全日本学生柔道優勝大会でチームは連覇に届かなかったが、4戦4勝でポイントゲッターの役割を果たした荒川は大会の優秀選手賞に選出された。
矢野監督は寝技を高く評価している。
「寝技は下からも上からも攻められる。元々、いいものは持っていましたがワンパターンなところがあった。そこで基礎から徹底しました。OGである女子63kg級の嘉重(春樺)に続く選手になって欲しい」
嘉重は国際大会8戦無敗で、2026年9月28日時点でのIJF(国際柔道連盟)の世界ランキング1位に君臨している。今年の世界選手権バクー大会では、大会連覇がかかっている。
荒川は「シニアの大会で勝っていける選手になり、世界の舞台で活躍したい」と、5学年上の先輩に続くことを誓った。
試合中の笑顔の理由
最後に紹介するのが龍谷大学2年の木村穂花(きむら・ほのか)。女子63kg級。滋賀の比叡山高校出身で、2年時に全国高等学校選手権、3年時にはインターハイと世界カデ柔道選手権大会を制した。龍谷大進学後も全日本ジュニア体重別選手権を2連覇するなど、19歳のホープである。
印象的なのは、彼女が試合中、笑顔を見せることだ。その理由について、本人は「大学に入ってから意識するようになりました。“勝たないといけない”思い過ぎると、動きが硬くなる。楽しもうという気持ちでやっていたら、自然と笑顔になっていました」と話す。
龍谷大の堀田幸宏監督にも話を聞いた。
「柔道が大好きで、勝負を楽しんでいるんだと思います。(試合中に笑うのは)珍しいタイプ。彼女の場合、負けず嫌いで、ムキになってしまうところもある。それを笑顔でコントロールしているのかもしれません。私も試合中、『我慢しろ!』『冷静に!』と声を掛けています」
そして、こう続ける。
「勝負に対する気持ちが強く、ガツガツしているタイプ。今までは雑に行く部分も身体能力の高さでカバーしていた。それが最近はポイントをリードしている時、守りに徹したり、勝負をまとめていくという我慢ができるようになってきた」
立って良し、寝て良しの万能型である。木村本人も「どちらでも勝負できるのが強み」と胸を張る。
「今年の目標はB強化選手に入ること。全学は優勝しなければいけない。63㎏級は嘉重さんが抜けている存在。自分もいるんだぞ、と思ってもらえるように頑張ります。そのためにはシニアで結果を出していないといけません。目標は11月の講道館杯で優勝し、グランドスラム東京に出場することです」
(取材/杉浦泰介、取材・写真/大木雄貴)
※BS11では今回紹介した4人が出場する「ALSOK presents 2026年度 全日本学生柔道体重別選手権大会」の模様を10月4日(日)19時から放送します。男子の解説は全日本柔道連盟強化委員長で、SBC東京医療大学柔道部の山田利彦部長が、女子はパリオリンピック女子57kg級金メダリストの出口クリスタさんが務めます。また11月7、8日に行われる「2026年度 講道館杯全日本柔道体重別選手権大会」も8日(日)19時から放送予定です。