締めつけたり、矯正するのではなく、動かしながら体を正常な位置に戻す。これが山本化学工業が打ち出す「ゼロポジション」のもうひとつの重要なコンセプトだ。体に過度な負担をかけることなく、「ストレスゼロ」で正しい姿勢を動きの中で覚えこませる。老若男女や競技レベルを問わず、「ゼロポジション」の発想が広く応用できるのは、そのためだ。「ゼロポジション」の今後の展開について、前回に引き続き、山本富造社長に二宮清純が訊いた。

 介護の世界でも重宝

二宮: 「ゼロポジション スポーツベルト」にはスポーツの分野以外でも、反響があったそうですね。
山本: 今回、「ゼロポジション スポーツベルト」は実用新案も取得しました。当初はスポーツ用品店などでの取り扱いを考えていたのですが、セミナーを開いて商品を紹介すると、介護業界にも需要があることが分かりました。それも介護される側ではなく、介護するヘルパーさんに好評なんです。

二宮: 介護士の仕事は重労働です。毎日のように高齢者をベッドから起こしたりしていると、知らず知らずのうちに体は歪んでしまうでしょうね。
山本: ベッドの横から起こしたり、無理な体勢をとることも多いですからね。スポーツでも作業でも骨盤がずれてくると、これが腰痛やひざ痛の一因になり、余計につらくなるんです。今回、介護士の方にゼロポジションベルトを巻いてもらって業務をしてもらったところ、「作業がラクになった」との声をいただいています。骨盤が正しい位置にくるため、偏りがなくなり、体への負担が軽減されるんですね。

二宮: 体を使う仕事は他にもたくさんありますから、ますます用途が広がりますね。
山本: 外国では作業従事者の体を守るために、腰などにサポーターを巻くように取り決めているところもあります。それらはコルセットのように締めつけることで、その部位を保護することが主目的になっている。でも作業中だけでなく、日常から骨盤が正しい位置にあれば、もっと快適に仕事ができるはずです。

二宮: となると、ゆくゆくは海外展開も可能と?
山本: はい。実際、バイオラバーに関しては、この3月に台湾のTFDA(台湾食品薬物管理局)からマットやベスト、ベルトなどが医療機器として認定されました。4月より本格販売をスタートしています。海外で医療機器として認定されるにはハードルが高く、国際品質保証規格のISO13485を取得していないと申請もできません。日本でISO13485の規格を満たしている200社強。従業員数が200人に満たない企業で取得しているのは山本化学工業だけなんです。

二宮: 資格を得るにはどのくらいの期間やコストが必要なのでしょうか。
山本: 1年8カ月ほどかかりました。安全基準の審査だけでも莫大な金額がかかります。たとえばバイオラバーは体の上に装着するものですが、万が一、体内に入れても問題がないかを実験するんです。こういった検査がいくつもある。とはいえ、クリアしないと海外では相手にされません。日本は、こういった基準が厳しいイメージがありますが、実は厚生労働省の設けているハードルは外国と比べると低い部分が多いんです。

 自然と姿勢を正す

二宮: 日本でもバイオラバーは統合医療学会で健康機器の第1号認定を受けたとか。
山本: 統合医療は複数の治療を組み合わせて同時に進めることで、効果を高める方法です。組み合わせによって各人に合わせた治療ができますから、病気の予防や健康増進にもつながり、現在、社会問題になっている医療費の削減も見込めます。バイオラバーは人体の外から赤外線を放射することで体を温めます。これからの健康のキーワードは「温める」です。これは他の治療と並行して活用することが可能です。数ある健康機器の中から、バイオラバーが唯一認定をいただいたことは、大変うれしく思っています。

二宮: 今回のゼロポジションベルトから、次はどんなアイデアが生まれてきそうですか。
山本: 現代社会はPCの前で机に向かって作業する時間がどんどん増えてきています。二宮さんも原稿を執筆する際、体が前かがみになっていませんか? そして疲れてくると、自然と背中の後ろに手を当ててグーッと背伸びをしているのではないでしょうか。

二宮: よく、やっています(笑)。
山本: これは前かがみにズレてきている肋骨を、手で下から押し上げ、戻そうとしているんです。それでも同じ体勢を続けていると、どうしても体は猫背になってきます。この状態で運動をしても、正しい位置ではありませんから、歪みがとれず、姿勢を元には戻せません。ならば、常に後ろから肋骨を支えてあげるサポートができれば、前方への歪みが解消できると考えています。

二宮: 具体的には、どんな製品になるのでしょう?
山本: トレーニングウェアの背中側に、ゼロポジションベルトを取りつけて、少し下から引っ張り上げる。これにより肋骨を上へ押し上げます。これを着てジョギングやウォーキングをしているうちに、自然と姿勢も正しくなるという効果が見込めるはずです。

二宮: 無くて七癖という言葉があるように、私たちの体も日々の生活の中で、いろいろな癖がつき、歪んでいます。それを無理なく元に戻すだけで、随分と体の問題点が改善されることがよく分かりました。
山本: 今回のゼロポジションベルトに関して言えば、特に骨盤が開き気味の方にはオススメです。開いている方のベルトを少し引っ張れば、動きの中で骨盤が元に戻っていく。骨盤の歪みは普段はあまり自覚できない分、厄介です。歪んでいることに気づかず、スポーツをしても左右対称に体が動きませんから、余計にズレが生じてしまいます。ゼロポジションベルトを活用することで、スポーツをしながら歪みをとり、多くの方が体を動かせるお手伝いができればと考えています。

二宮: 高齢化が加速する中、近年は自立した生活ができる「健康寿命」をいかに伸ばすかがテーマになっています。そのためには齢を重ねてもスポーツを続けられる環境づくりが必要です。
山本: いくらスポーツが好きと言っても、苦しいだけでは長続きしないものです。「ゼロポジション」の考え方は苦しいこと、しんどいことを要求しません。体の状態を無理をすることなくゼロに戻す。体を正常にすれば、スポーツをもっと楽しめる。この発想をもっと多くの方に伝えていきたいですね。

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