いよいよ前期も佳境に入ってきました。新潟アルビレックスBCは12日現在、26試合を終えて17勝8敗1分け。8日には優勝マジックが点灯し、現在は5となっています。野球の現場を離れて15年、指導者としては初めての私でも、なんとか采配できているというのが、一番の実感といったところです。
 成績うんぬんというよりも、自分が考えていた野球ができていることが大きいですね。私が一番大事にしているのは、いかに選手をグラウンドに気持ちよく送り出すか、ということ。そのためにも監督である私自身が声を出し、場の雰囲気を盛り上げることを意識しています。

 就任当初から私は選手に「オマエラに『監督』とは言わせないよ」と口癖のように言ってきました。組織というと、どうしても上司と部下という関係になってしまいますが、私は監督である自分が選手と一緒になってやることこそがチームの雰囲気をよくする、と考えているからです。実際、選手は私のことを「監督」ではなく、「ギャオスさん」と呼んでいます。私もその方が違和感がなくていいのです。

 また、シーズン序盤にチームとしての戦い方の方針を固められたことも、今の成績につながっているのだと思います。このチームがどうすれば勝てるのか、その方向性を確信したのが開幕から4試合目、4月20日の信濃グランセローズ戦でした。この試合はともに2ケタ安打という打撃戦となり、結果的には12−9で新潟が勝ちました。

 しかし序盤、試合の主導権を握ったのは信濃の方でした。先発の寺田哲也(作新学院高−作新学院大)が打ち込まれて3回途中で降板し、4回を終えた時点で0−4。しかも新潟の打線はわずか1安打と完璧に抑えられていました。それでも5回表、新潟の打線が奮起し、一挙6得点で逆転しました。この時、私は「これが前年覇者の新潟の力か」と思いました。

 ところが、その裏に5失点を喫し、再び信濃にリードを奪われてしまいました。私はこの時、正直「さすがにもう一度ひっくり返すのは無理だろう」と思っていました。ところが、8回に4点を挙げ、再び逆転してしまったのです。さらに最終回にはダメ押しの2点を追加し、そのまま逃げ切ってしまいました。

 この試合で私は新潟アルビレックスBCというチームの強さを感じたとともに、打撃のチームであることがはっきりとわかりました。そうであるならば、ピッチャー出身である自分がしっかりとピッチャーを育て、管理していけば、このチームは投打のかみ合った戦い方ができる、という確信を得ることができたのです。

 期待膨らむ新人ピッチャー

 さて、私はピッチャー出身ですので、やはり「野球はピッチャー次第」と考えています。ですから、防御率はなるべく抑えたいと思っていました。現在、チーム防御率はリーグトップの2.26。これはピッチャーがバッターに対して積極的に勝負しにいき、ピッチャー有利のカウントに追い込んでいるからこその数字です。

 また、「勝利の方程式」がしっかりと確立されているということも大きいでしょう。リーグ最多の7勝を挙げている寺田、ルーキーながら4勝を挙げているサウスポー佐藤弘輝(黒羽高−日本大国際関係学部)の先発陣の後には、セットアッパー間曽晃平(横浜商高−神奈川大)、クローザー羽豆恭(中央学院高−中央学院大)が控えています。

 寺田、間曽、羽豆は昨季同様の働きをしてくれているわけですが、1年目の佐藤が与えられた役割をなんとかこなしてくれているのは大きいですね。しかし彼は、変化球が抜けることが結構あり、四球を出すと、「オレは悪くないよ」とばかりにそっぽを向いてしまうクセがありました。そこで、私は彼にこう言いました。
「先発という場所を与えているのだから、チームの柱としての責任を持ちなさい。投げたら投げっぱなしではなく、バックに自分が責任をもって投げている姿を見せなさい」
 徐々にそうした姿を見せてくれるようになってきたことが、リーグトップの防御率0.73という数字に表れているのです。

 その佐藤にはNPBからの指名という期待感もあります。彼が抑える姿には、爽快感を覚えます。何よりも魅力的なのがフィールディングの素晴らしさ。足の細やかさ、ヒザの使い方は抜群です。球のスピードこそ130キロ台半ばとNPBで投げるには不足していますが、これもNPBで鍛えれば伸びてくるはず。スカウトに少しでもアピールできるよう、彼にはタイトルを獲らせてあげたいなと思っています。

 今後の成長株としては、佐藤と同じルーキーの上野和彦(鶴岡東高−桜美林大)と田村勇磨(糸魚川中−日本文理高)の2人を挙げたいですね。上野は正直言って、スピードはありません。真っ直ぐは130キロ出るか出ないかです。しかし、彼はそのことをマイナスとはまったく考えていないのです。「自分のボールは遅い。だからこそ、丁寧に投げる」というスタイルを自信をもって貫く、それができるピッチャーです。

 1−1の引き分けで終わった9日の群馬ダイヤモンドペガサス戦、先発した上野は7回を投げて4安打1失点でした。1失点はカラバイヨのホームラン。この時の球は、力みが生じていました。しかし、それ以外は、いつもの上野の丁寧なピッチングで群馬打線を見事に抑えてくれました。頼れるピッチャーのひとりであることは間違いありません。

 一方、高卒ルーキーの田村は真っ直ぐに魅力のあるピッチャーです。上体だけで投げているにもかかわらず、球に力強さが感じられるのですから、下半身が使えるようになれば、140キロ台後半はいくでしょう。投げる際、足の上げ方がダラッとしていて、見栄えはあまり良くないフォームなのですが、それでもチェンジアップも腕を振って投げられるのですから、こちらも頼もしいですね。

 元4番を1番で起用の真相

 打線はというと、たたみかける攻撃ができるのが特徴です。私の采配がうんぬんというよりも、選手個々の能力の高さ故でしょう。「ここは長打が欲しい」といった場面で、シングルヒットではなく、長打が出るのです。その打線の4番には昨季、打点王を獲得し、独立リーグチャンピオンシップではMVPに輝いた平野進也(東福岡高−武蔵大)を起用してきました。しかし、彼はキャッチャーで守備の要でもありますから、少し負担が大きいと感じてもいたのです。

 そこで今季初の連敗を喫した後の5月19日、石川ミリオンスターズ戦から新4番に抜擢したのが足立尚也(横浜商科大高−桜美林大)です。チームには4番候補がたくさんいます。その中で決してパワーヒッターではない彼を4番にしたのは、ひとえに彼の真面目な性格からの信頼感です。日常の生活態度や野球への姿勢からはひしひしと熱いものが伝わってくるのです。

 実際、足立は期待に応えてくれています。波が少なく、確実に点を取ってくれますし、バントが得意ですから、4番にも平気で送りバントのサインを出す私の采配には適した4番打者と言えます。バッティングだけでなく、守備も非常に巧い選手ですから、今後も攻守にわたってチームを支えてくれることでしょう。

 そして私を驚かせてくれたのが、福岡良州(流通経済大附柏高−流通経済大)です。長打力のある彼は、入団1年目から主軸を任され、1年目には打点王を獲得するなど勝負強さに定評のある打者です。その福岡を、私は今季、6、7番で起用していました。というのも、3、4、5番に続く“ダブルクリーンナップ”という位置づけだったのです。

 しかし、1番・野呂大樹(堀越高−平成国際大)の不調が続いたこともあって、福岡自ら1番への起用を願い出てきました。正直、私には福岡を1番にするという引き出しはありませんでしたから、「そんな冒険する余裕はない」と思っていました。ところが、いざ1番に起用すると、これが意外にもハマったのです。出塁率が高く、積極的なバッティングをする福岡は、素晴らしいリーディングヒッターとしてチームを牽引してくれています。そして、私の引き出しの幅を広げてもくれたのです。

 前期は残り10試合。選手にはこれまでと変わらずに、自分の役割を果たすべく、やるべきことをしっかりとやってほしいですね。チームスローガンに「継続」とあるように、昨季に続いての優勝はもちろん、選手ひとり一人が自分自身を伸ばす努力を続けてほしいと思っています。

内藤尚行(ないとう・なおゆき)>:新潟アルビレックスBC監督
1968年7月24日、愛知県出身。豊川高から87年、ドラフト3位でヤクルトに入団。その後、ロッテ、中日でプレーし、97年限りで現役を引退。現役時代から「ギャオス内藤」の愛称で親しまれている。今季より新潟アルビレックスBCの監督を務める。
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