中日・谷繁元信にとって、今季は記録イヤーだ。
 5月6日の2000本安打に続き、6月13日には1000打点を達成した。
 過去、この2つの記録を達成した選手は谷繁を含め30人。重労働のキャッチャーに限ってみれば、野村克也、古田敦也に続いて史上3人目だ。

 記録を達成する前、本人はこう語っていた。
「僕の打順は大体、7番か8番。こういう打順で過去に1000打点を達成した人はいないでしょう。単純計算ですけど、2本のうち1本が打点につながっているわけでしょう。結構、勝負強い方じゃないですかね」

 名捕手あるところに覇権あり――。これは知将・野村克也の口ぐせだが、その野村が最も評価している現役キャッチャーが谷繁である。
 横浜、中日の主戦捕手としてマスクを被り続け、リーグ優勝5回、日本一2回。この16年間、Bクラスは一度もない。

 谷繁には「続きの谷繁」とのニックネームがある。バッターが苦手にしていると分かれば、そこを徹底して突いてくるのだ。
 特に内角への攻めはしつこく、バッターが音をあげることもしばしばだ。ボクシングで言えばボディブローの連打といったところか。

 谷繁と同時代にセ・リーグでマスクを被ったあるキャッチャーが谷繁をこう称えていた。
「キャッチャーにとって内角を徹底して突くのは勇気のいる仕事。際どいところを攻め過ぎてぶつけてしまったら、自分もやられる。勝利へのこだわりが薄いと、なかなかあそこまではやれませんよ」

 プロ入り25年目を迎え、谷繁のリードは、ますます円熟味を増しつつある。チームの巻き返しに、彼の頭脳は欠かせない。
「最近は試合の潮目のようなものが見える。だから今は本当にキャッチャーという仕事がおもしろいですね」
「生涯一捕手」の名言を残したノムさんが引退したのが45歳。まだ3年もある。

<この原稿は2013年7月8日号『週刊大衆』に掲載されたものです>

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