W杯フランス大会アジア最終予選、アウェーのウズベキスタン戦だった。中田英寿はスタメンから外れた。
 彼は猛烈に憤慨していた。今後代表に招集されてもボイコットするのではないか、と心配になるほどの憤慨ぶりだった。
 あの時、彼は20歳だった――。
 東アジア杯に出場するメンバーが発表された。もっとも注目を集めたのはセレッソの柿谷曜一朗だっただろうか。才能に疑いの余地はない。人間的にも大きく成長した。日本代表に新風を吹き込む可能性は十分にある。

 ただ、彼はもう23歳である。

 かつては日本サッカー界にも、中田英寿や小野伸二など、10代で代表に抜擢(ばってき)される選手がいた。もちろん、ちょっとしたニュースではあったものの、そのことに驚愕(きょうがく)する人は少なかったように思える。

 いまは、どうだろうか。ファンは、メディアは、代表チームに10代の選手がいない現実を当たり前のものとして捉えるようになっていないだろうか。

 そして何より、Jリーグでプレーする10代の選手は、本気で、死に物狂いで代表チームを目指しているだろうか。

 代表チームに招聘されないことを、憤慨できる自分でいるだろうか。

 呼ばないから育たないのか、育っていないから呼ばないのか。理由はどうであれ、現在の日本の“若手”たちは、いささか異様なほどの物分かりの良さで順番待ちの長〜い列に並んでいる。野球などに比べればはるかに年功序列の弊害から解き放たれているはずだったのに、行儀よく先輩たちの活躍ぶりを眺めている。

 中田英寿が10代だった頃に比べ、日本サッカーの質量が飛躍的に向上しているのは間違いない。中田たちの世代はU―17、U―20で世界大会を経験していたのに対し、大人たちはまるで世界を知らなかった、ゆえに若い世代が台頭しやすかった、という面もある。

 思えば、本田圭佑は自分よりはるかに経験も実績もある選手を押し退け、FKを蹴ろうとした男だった。日本社会では褒められたことではないかもしれないが、代表チームが戦うのは、それが常識となっている国々なのである。

 今回、東アジア杯に招集された選手たちには、暫定とはいえ一度手にした立場を絶対に手放さないぞという気概を期待したい。そして、それ以上に、いまJに出場していて、それでいながら代表入りをほとんど意識しないでプレーしている10代の選手の発奮を待ちたい。たとえばエスパルスの石毛、たとえばセレッソの南野である。

<この原稿は13年7月18日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
◎バックナンバーはこちらから