創成期のJリーグにとって、チーム名から企業名を外すというルールは、絶対に譲れないものだった。
 それまでの日本のスポーツが、プロ野球を含めてことごとく企業主導で動いてきたことを考えれば、この判断はまさに大英断だったといえる。日本のスポーツ界は、企業以外にもバックボーンにできるものがあることを初めて知った。
 Jリーグによって示された地域密着という思想は、徐々に他のスポーツにも広がっていった。興味深いのは、一時期Jリーグに対する警戒心を隠そうとしなかったプロ野球界の中にも、Jと同じ方向に舵を切るチームが出てきたことである。88年に福岡への移転を決めたホークスの決断も大きかっただろうが、Jがなければ、ファイターズやマリーンズ、さらにはイーグルスといったチームの現在はまた違っていたのでは、とも思う。

 地域密着の思想を持ち始めたプロ野球球団の中には、チーム名に地域名を入れるところが出てきた。だが、Jと違ったのは、そこで企業名を排除しなかったということである。

 そのことで、地域への密着は難易度を増しただろうか。

 20年前の日本では、企業名を排除しなければ地域密着という哲学が骨抜きになってしまう可能性があった。だが、21世紀のプロ野球は、地域密着という哲学があれば、企業名は邪魔にならないということを証明しつつある。プロ野球がJの影響を受けたように、今度はJがプロ野球からの影響を考えてもいい時期ではないか。

 すでに大都市にしっかりと根を張り、なおかつ大企業の支えを受けているチームはいざ知らず、Jの多くのチームは資金繰りに苦しみ、選手のギャラでは中国はもちろん、東南アジアの国々にも追い抜かれつつある。中国には年俸10億円を超える選手がいて、インド・リーグでプレーするわたしの友人は、月80万円のギャラを保証されている。

 そろそろ、Jリーグは新たな資金源について考える時期ではないか。

 東南アジアのマーケットを開発する、という狙いは悪くない。コンサドーレは初のベトナム人選手を獲得した。だが、まずはリーグとして、日本の企業がJに関係していくメリットを考えていく必要がある。つまり、もっと日本企業がお金を出しやすい環境をつくっていく必要がある。

 中国に抜かれたとはいえ、日本は依然世界第3位の経済大国である。アベノミクスとやらの効果も少しずつ出てきているらしい。だが、現在のJからは、経済大国としての風格も、景気好転の気配も、まるで、まったく、カケラも伝わってこない。これでいいのか。あくまでもこのままでいかなければならないのか。個人的には、川淵元チェアマンの意見も聞いてみたいと思うのだが。

<この原稿は13年7月25日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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