欧州サッカーリーグの歴史は、栄枯盛衰の歴史でもある。
 まずは発祥の地でもあるイングランドがリードし、70年代あたりからブンデスリーガが頭角を現してくる。80年代中期から後期に入るとセリエAが“世界最高峰”としての呼び名をほしいままとするようになるが、20世紀をまたごうかという時期になると、スペインのサッカーが俄然注目を集めるようになる。
 21世紀に入ると、時代は2周目に入った。外資の導入などで豊富な資金を手にしたプレミア勢が再び欧州の覇権を取り戻したかと思えば、06年のW杯開催を期に、一時期どん底に陥ったかに見えたブンデスリーガがメキメキと盛り返してきた。

 興味深いのは、各国のリーグが台頭する時期には、象徴的な外国人選手の存在がある、ということである。70年代後半のブンデスリーガには、“マイティ・マウス”こと英国人のケビン・キーガンがいた。セリエA黄金時代には、フリットを始めとするオランダ・トリオやマラドーナなど、世界のスーパースターたちがひしめいていた。銀河系軍団にはいわずとしれたジダンにベッカム、バルセロナならばロナウジーニョ、メッシなどの名前があげられる。

 13年現在、セリエAは斜陽の時代にある。キラ星のごとき世界の才能が集っていた時代は完全に過去のものとなり、いまではイタリア人でさえ「世界最高峰である」とは口にしなくなった。圧倒的に低い“スタジアム力”の問題など、克服しなければならない課題は山ほどにある。

 だが、20年前に後のプレミアを、10年前に現在のブンデスリーガを予想した人がほとんどいなかったように、いまは死に体に見えるセリエAにも、必ずや再興の時はやってこよう。

 そのきっかけをつくった外国人選手として、本田の名前が記憶されるようになれば、と強く思う。

 簡単なことではもちろんない。だが、もし彼が本気でW杯での優勝を狙っているのであれば、是が非でもクリアしなければならないミッションでもある。いまのセリエAでスターになれないような選手が、どうして日本代表を空前絶後の高見へと引き上げられよう。

 不可能なこと、だとはまったく思わない。ただ、実現するための最初のハードルは、加入時期である。報道によると、ミランは移籍金のかからない1月の移籍を希望しているようだが、シーズン途中の移籍でスターダムに上り詰めるのは至難の業である。

 カネがかからないのであれば欲しいが、かかるのであればいらない――現在のミランの本音を探れば、そんなところか。これは日本人選手に対するイタリア人の印象そのものといっていい。ならば、それが覆った時の衝撃が相当なものになるのは、いうまでもない。今夏の移籍を、だからこそ期待したい。

<この原稿は13年7月11日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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