富山サンダーバーズは前期、あと一歩のところで優勝を逃してしまいました。優勝を意識していくうちに、徐々にチーム全体の動きがかたくなってしまったのです。また、それまでは必死に目の前の1勝を目指していたのが、前期の終盤には「勝てるだろう」という雰囲気がチーム全体に広がっていたことも否めません。それは後期に入ってからも続き、4連敗を喫しました。しかし、連勝をした19、20日では、ようやく本来の必死さが見えました。選手たちは忘れかけていたものを取り戻しつつあるようです。
 進藤達哉監督からは「ひとり一人が、自分の役割とは何かを考え、やれること、やるべきことをきちんとやって、チームの勝利に貢献してほしい」と言われています。前期はそれができていたからこそ、チームは首位に浮上し、優勝マジック点灯というところまでいったのです。ところが、最後の最後、それができなくなってしまいました。

 たとえば1死二、三塁というチャンスの場面、得点するにはヒットだけではありません。内野の守備体系を見ながら内野ゴロで1点を取ることも戦略のひとつです。つまりたとえヒットでなくてもコツコツと得点を稼ぐことができるといった泥臭い野球が富山の真骨頂のはずでした。ところが、優勝が間近に迫ってくると、強振してファウルフライに終わるなど、せっかくのチャンスをいかすことができなかったのです。

 しかし、連敗をストップさせ、後期初勝利となった今月19日の石川ミリオンスターズ戦では、ようやく富山らしい野球をすることができました。4−6と2点ビハインドで迎えた5回裏、相手エラーや3連続四球で2点を返して同点にしたのです。そして1死満塁の場面、9番・岡野勝利(前橋育英高−群馬ダイヤモンドペガサス)が必死に粘って食らいついて打ったセカンドへの内野ゴロの間に、三塁ランナーが返り、勝ち越しに成功しました。結局、これが決勝点となりました。岡野の内野ゴロだけでなく、この試合全体に、選手たちが自分たちがしてきた野球を思い出したような印象がありました。後期優勝に向けての手応えを感じることができたのです。

 昨季首位打者・有澤の復活に期待

 さて、個人の成績を見ると、2年目の生島大輔(大阪桐蔭高−早稲田大−JR東日本)が打率3割1分1厘と好調です。彼は考えて野球をすることのできる、とても賢い選手です。調子が悪くなっても自分がすべきポイントをしっかりともっているため、調子の波が少ないのです。そして何よりも、日ごろから身体のケアをしっかりしているからこその成績でしょう。シーズン中は好きなお酒もほとんど飲みません。こうした姿からも今季にかける思いの強さが伝わってきます。

 打点部門では、キャプテンのユウゾウ(早稲田実高−早稲田大−府中ダイヤモンドバックス−新潟アルビレックスBC)がチームトップの27打点、そして3年目の島袋涼平(おかやま山陽高−アトランタブレーブス・ルーキーリーグ)が23打点を挙げています。ユウゾウも島袋も2、3年、進藤監督の下でプレーしていることもあり、監督がどういう野球をやりたいのかを理解しています。だからチャンスの時の打点の挙げ方を熟知している。ヒットでなくても、ここ一番という時に、ランナーを返すための内野ゴロや犠牲フライを打ち、きちんと仕事を果たしてくれます。

 一方、今後の活躍を期待しているのが有澤渉(高岡商高−日本体育大−きらやか銀行)です。有澤は昨季、首位打者に輝きましたが、今季は24日現在、打率1割8分9厘と本来の力を発揮できずにいます。高い技術があることは、昨季既に証明済み。課題はやはり気持ちの部分でしょう。彼は優しい性格で、自分から相手に向かっていくタイプではありません。しかし、やはり勝負の場では向かっていく気持ちは不可欠です。まずは「何が何でも」という気持ちを前面に出してほしいと思っています。きっと、このままでは終わらないはずですので、後期は期待していてください。

 兼任コーチだからこその学び

 さて、今季の富山はこれまでの大味な野球ではなく、機動力を生かした野球を目指してきました。僕はもともと足にも自信がありましたので、プレーイングコーチでもあり、主軸でもある自分が、どんどん次の塁を狙ってしかけていく姿を見せれば、他の選手も積極的な走塁ができるだろうと考えていました。

 しかし、「まずは自分がプレーで示さなければ」という気持ちが強過ぎて、開幕当初はなかなか思うようにいきませんでした。しかし、現在ではいい意味での“開き直り”をして、自分の成績に関係なく、経験者として思っていること、感じていることを選手には伝えるようにしています。そうしなければ、逃げていることにもなりますし、選手にも申し訳ないと思ったからです。

 その“開き直り”のきっかけを与えてくれたのが、進藤監督でした。僕がプレイングコーチとしてどうすればいいのかを相談したところ、進藤監督は「そんなにコーチらしくしようなんて考えなくていい。選手との距離が遠くなりすぎても良くないしな」と言ってくれたのです。

 初めてのコーチ業は、まだまだの部分が多いものの、僕が最も大事にしているのは「選手をよく見ること」です。それは07年、BCリーグの初年度、僕が選手1年目の時にプレーイングコーチだった宮地克彦さん(現・埼玉西武二軍コーチ)からいただいたアドバイスでもあります。宮地さんからは「調子が悪くなる前にアドバイスすることが大事」と言われました。そのためには、普段からひとり一人をきちんと見て、ささいな変化をも見逃さないことが求められます。僕はまだできているとは言えませんが、少しずつ選手の変化を感じることができるようになってきたかなという手応えもつかんでいます。今後も選手をよく見て、不安のない状態で彼らを打席や守備に送り出せるようにしたいと思っています。

野原祐也(のはら・ゆうや)>:富山サンダーバーズプレーイングコーチ
1985年1月7日、埼玉県生まれ。大宮東高では3年時に1番打者として活躍。国士舘大では4番に座り、4年時には主将を務めた。2007年、富山サンダーバーズに入り、1年目から首位打者、本塁打王の2冠に輝く。2年目は主砲としてチームをリーグ優勝に導き、2年連続でMVPに選出された。09年、育成ドラフト1位で阪神に入団。7月には支配下登録され、9月には一軍デビューを果たす。翌年からはケガなどもあり、一軍復帰することなく、昨年、戦力外通告を受ける。13年、富山のプレーイングコーチに就任した。
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