<これは失敗ではなく負けだ。失敗はしていない。失ったものはないと思う。>
 2013年5月5日。内閣総理大臣杯争奪第41回日本車椅子バスケットボール選手権大会・決勝。2年連続で準優勝となったNO EXCUSE(東京)のヘッドコーチ及川晋平は、翌日のブログでこう書いている。昨年に続いて決勝に進んだNO EXCUSEだったが、宮城MAXに45−77で敗れ、大会史上初の5連覇を阻むことはできなかった。
「もう、まさに完敗でした。あんなやられ方、久しぶりでしたよ」
 主戦の安直樹がそう口にするように、ロンドンパラリンピック日本代表の半数以上が所属する宮城MAXにNO EXCUSEは歯が立たなかったと言っても過言ではなかった。
「MAXの力が上でした」
 及川もそう認めている。だが、チームは決して後退したわけではない。そこには着実に前進している姿があった。

 “連携”で臨んだ2度目の決勝

 昨年、NO EXCUSEは07年以来、2度目となる決勝の舞台を踏んだ。結果は宮城MAXに50−64で敗れ、準優勝。だが、一時は1ゴール差にまで追い詰めるなど、王者を十分に苦しめた。この試合で安はチームに手応えを感じていた。
「少し『やれるな』という気持ちが出てきましたね。来年こそはMAXと互角に戦えるかなと」
 自信を手にしたチームは今年、“宮城MAX対策”を最重要テーマに強化を図ってきた。

 その柱として掲げたのは“連携”だった。
「MAXには藤本怜央という大きな得点源がいて、他にも日本代表がズラリと顔を揃えている。そんなタレント揃いのチームに、個々では勝てない。だから、5人の連携が非常に重要なんです」
 安はそう“チームワーク”の重要性を語る。

(写真:チームの主力である安直樹<左>)
 海外でもプレー経験があり、元日本代表の安は、NO EXCUSEの攻撃の起点でもあり、得点源でもある。その安に相手のマークを引きつけ、いかに優位な状況で他の4人が動き、シュートチャンスをつくることができるか。そのためには宮城MAXの速い展開に合わせることなく、24秒をフルに使って、ジリジリと粘り強く攻めていく。これがNO EXCUSEの“宮城MAX対策”だった。ところが――。

 迎えた決勝戦、宮城MAXはスタートから予想以上のトップギアで攻めてきた。パスをつないでシュートチャンスをつくろうとするNO EXCUSEに対し、宮城MAXは激しくプレッシャーをかけてきた。これに対し、NO EXCUSEのシュートはなかなか入らず、逆にリバウンドを取って速攻という相手の術中にはまったかたちとなった。

 ディフェンスでは最大の得点源である藤本にシュートを打たせまいと厳しくマークするも、その他の選手に次々とシュートを決められた。前半、宮城MAXのシュート成功率は70%台に達していた。
「完全に波に乗せてしまいましたね。70%だなんて、普通はあり得ない数字ですよ。途中からは手に負えない状況でした」
 安はそう振り返る。

 後半、NO EXCUSEも必死に追い上げを図ったが、結局45−77で敗れた。安は最大の勝負どころはスタートにあったと語る。
「第1クオーターの序盤、自分たちが決めなければいけないところで決められなかったのに対し、MAXは速攻を決めて勢いに乗ってしまった。それでもくらいついていかなければいけなかったのですが……。でも、くらいつこうにもこっちのシュートが入らなかった」
 一度勢いに乗った宮城MAXを止めることはできなかった。

 成長を確信した準決勝

 確かに試合は、宮城MAXの圧勝という結果に終わった。だが、及川に焦燥感や絶望感はなかった。それどころか、むしろ達成感を感じていた。
「昨年、僕たちは“センターコートに立つこと”を目標としてきました。つまり、ベスト4以上になろうと。そして、前年に準優勝した千葉ホークスをまずは倒そうとやってきたんです。そういう意味では、準決勝ではホークスに完勝しましたし、決勝の舞台にも立った。さらに決勝ではMAXを苦しませることができた。それじゃ、ということで、今年は“MAXへの戦略を持つこと”を目標に掲げました。決勝ではしっかりと戦略を持って戦うことができました。負けはしたけれども、やろうとしたことはできたし、十分に力を発揮した。そのうえで相手の方が力が上だったということです」
(写真:チームに手応えを感じている及川ヘッドコーチ)

 スコアからは一見、宮城MAXとの差が広がったように見えるが、実はそうではない。NO EXCUSEのバスケットの質は一歩一歩、着実に向上しており、そしてチームは少しずつ変化している。
「今年はとにかく決勝戦にもう一度行くということが、チームにとって非常に重要だったんです。もし、今年決勝戦に行くことができなければ、昨年はたまたまだったのかなということになってしまいますからね。2年連続で準優勝というのは、決勝に行くまでの実力はついたということの証明になったはずです」

 及川がチームの成長を確信した試合がある。準決勝のパラ神奈川戦だ。実は今年1月、チームの目標を話し合った際、パラ神奈川について「ベテランが多いし、勢いに乗ったら怖い相手だよね」という感想を口にする選手が多かったという。もちろん、実力的には決して侮れないチームであることは確かだった。だが、本来の実力を発揮すれば、決して負ける相手ではない。

 及川は日本選手権のトーナメント表を見て、順当にいけば準決勝で当たるパラ神奈川戦が、チームの成長をはかる試金石になると考えていた。結果は65−45で快勝。しかもこの試合、安と並ぶ得点源である菅澤隆雄がファウル4つとなり、途中からベンチに下がっていた。それでも一度も追いつかれることなく、勝利を収めたのだ。
「全員で勝ち取ったゲーム。チームの実力が示された試合でした」
 及川はそう手応えを口にした。

 日本選手権から早くも3カ月が経とうとしている。現在、及川の頭には次なる課題が明確にある。それは若手の育成だ。
「結果を出し始めている若手を、今後どう伸ばしていくか。それが僕にとって今、一番大きな宿題だと思っています」
 その若手とは、ともにチーム加入2年目となる湯浅剛、そして田中聖一だ。まったく正反対のタイプという湯浅と田中に、及川は大きな可能性を感じ、チーム強化のカギと見ている。果たして、2人はどんなプレーヤーなのか――。

(後編につづく)


<NO EXCUSE>
2002年、元日本代表の及川晋平が創設した東京を拠点とする車椅子バスケットボールチーム。「自己成長(Maximize Your Potential)」「社会貢献」「チームワーク」を理念としている。07年、日本選手権で初めて決勝進出を果たし、準優勝。12、13年と2年連続で準優勝を果たす。

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(文・写真/斎藤寿子)
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