前期の優勝から一転して後期は6勝13敗2分と借金生活。優勝に貢献した投手陣に疲れが出てしまい、投打のバランスが狂ってしまったのが勝てない原因です。エースの又吉克樹が指のマメを潰し、2週間ほど登板できず、左のセットアッパー後藤真人も肩の軽い炎症のため、しばらく大事をとって休ませました。離脱していないピッチャーも暑い夏場に来てボールにキレを欠き、ここ一番で打たれています。
 僕たちもプロである以上、最後は結果がすべてです。よく「結果論で片付けてはいけない」と言われますが、結果が出ないのは出ないなりの原因があります。言い訳をせず、課題や問題点ときちんと向き合うことなしに成長はできません。前期は好成績を収めたとはいえ、まだ1年を通して戦える力が備わっていなかった点は僕も含めて反省すべきでしょう。

 首位の徳島に早くもマジックが点灯し、後期優勝は厳しい状況ながら、まだ9月末にはリーグチャンピオンシップが待っています。そこまでにチーム状態を上げ、10月の独立リーググランドチャンピオンシップ、みやざきフェニックス・リーグを経てのドラフト指名へとつなげていかなくてはなりません。練習ではフィジカルはもちろん、技術面でも各自がさらなるレベルアップを図っているところです。

 又吉に関しては新球の習得に取り組みました。それはフォークボールです。又吉は、これまでも紹介してきたようにサイドからキレのあるストレートとスライダーを投げます。ただ、強いていえば縦の変化球がほしいと感じていました。特に左バッターのひざ元やアウトローに落とせれば有効ですから、後期に入ってからは試行錯誤しながら、そのボールを見つけていきました。

 実はマメができて戦線を離れたのは、新球の練習をしていた影響です。おかげで、ここに来て一番、しっくりくるフォークの感覚をつかんできたように映ります。実戦復帰してからは、このボールを効果的に使って好投していますし、より磨きをかければNPB相手でも十分通用する武器になるでしょう。

 右の中継ぎの田村雅樹はフォームの調整に乗り出しました。彼の最大のアピールポイントはスタミナ。現在、リーグ最多の49試合に登板しています。しかし、それだけではワンランク上の世界にはいけません。より力強いボールを継続して放るにはどうすべきか。西田真二監督も交えて相談しました。

 その時、目に留まった映像が現在、セ・リーグの新人王候補に挙がっているライアンこと小川泰弘(東京ヤクルト)です。
「これを試しにやらせてみよう」
 西田監督の鶴の一声で、早速、田村にもライアン投法をやってもらいました。

 ところが、残念ながら田村は股関節が固く、足を上げる際に余計な力が入ってしまいます。その分、いざリリースする際には力が抜け、かえってボールが走らなくなってしまいました。そこでライアン投法に替えて、参考に見せたのが僕の現役時代のピッチングフォームです。

 僕も社会人時代、オーバースローながら体の使い方が横回転になる傾向があり、力をボールに伝えきれない悩みを抱えていました。そんな時、先輩キャッチャーからもらったアドバイスが「足を上げた時に左肩を下げてみろ」。実際にやってみるとタメができ、体重移動がスムーズになりました。体のブレがなくなった分、ボールの威力も増したのです。その後、アイランドリーグを経てヤクルトに入団しますが、基本はこのフォームがベースになっていました。

 田村のこれまでのフォームは軸足の小指に体重がかかり、力が逃げるかたちになっていました。それがバッター側の左肩をやや下げることで、内転筋の部分にタメが生じ、そこで溜めた力を軸足でしっかり蹴って、ボールに乗せられるようになりました。また、このフォームは前の肩が上を向かないため、ボールを低めに抑制できる利点もあります。彼にとって、予想以上に僕のフォームはしっくりきたようで、球速は144キロを記録し、制球力も向上しました。夏の甲子園が終われば、リーグの試合に訪れるNPBのスカウトも増えてきます。その時に「おっ!」と思わせる材料はできたのではないでしょうか。

 勝ち星はあまりついていないものの、先発を任せた渡辺靖彬篠原慎平の両右腕も後期に入って内容が良くなっています。渡辺はカーブやチェンジアップで緩急の使い方を覚え、ゲームをしっかりつくれるようになってきました。2勝止まりながら、防御率はリーグ6位の2.75と、ピッチングが安定しています。

 篠原も昨季までのケガによる長いブランクを前期で解消し、ストレートに角度がついてきました。登板後の回復具合も悪くなく、本人も「思い切って腕が振れる」と手応えをつかんでいます。彼も愛媛時代はスカウトに注目されていた存在です。残り試合で復活を、もっと印象付けてほしいと思っています。

 繰り返しになりますが、こういった日々の取り組みも、やはり結果を伴わなくては意味がありません。このままズルズルと負け越したまま、後期を終えるのではなく、少しでも白星を増やし、各選手にとっても、いいかたちで実りの秋を迎えたいところです。

 特に首位の徳島には0勝5敗2分と後期はひとつも勝てていません。今の徳島は首位打者の大谷真徳をはじめ、打線が好調で勢いがあります。狙い球をチームでしっかり絞ってきており、抑えるのは容易ではありません。
 
 ただし、NPBクラスであればこのくらいの打線は当たり前です。相手を封じるには、単に自分のベストピッチをするだけでなく、投球術も求められます。たとえば投げるテンポを変えてバッターのリズムを崩したり、ボールから入って出方をうかがうことも必要でしょう。逆に考える暇を与えず、ポンポンと追い込んだほうが良いケースもあります。こういった工夫をマウンド上で考えながら、実践していくことが大切です。

 現状はファンの皆さんにとっては申し訳ない限りですが、僕も選手も悔しい気持ちでいっぱいです。必ずチャンピオンシップでは後期優勝チームを圧倒できるよう、この苦い経験を生かしていきたいと考えています。1カ月先、2カ月先をぜひ見ていてください。


伊藤秀範(いとう・ひでのり)プロフィール>:香川オリーブガイナーズコーチ
 1982年8月22日、神奈川県出身。駒場学園高、ホンダを経て、05年、初年度のアイランドリーグ・香川に入団。140キロ台のストレートにスライダーなどの多彩な変化球を交えた投球を武器に、同年、12勝をマークして最多勝に輝く。翌年も11勝をあげてリーグを代表する右腕として活躍し、06年の育成ドラフトで東京ヤクルトから指名を受ける。ルーキーイヤーの07年には開幕前に支配下登録されると開幕1軍入りも果たした。08年限りで退団し、翌年はBCリーグの新潟アルビレックスBCで12勝をマーク。10年からは香川に復帰し、11年後期より、現役を引退して投手コーチに就任した。NPBでの通算成績は5試合、0勝1敗、防御率12.86。
◎バックナンバーはこちらから