リーガの開幕を1週間後に控えた8月10日、バルセロナはクアラルンプールでマレーシア代表と親善試合を行った。試合直前になってバルサ側からのクレームにより会場が変更になるという信じられないような“事件”があったものの、バルサ、マレーシア、どちらのファンにとってもまずまず満足のいく試合だったのではないか。結果はバルサの3−1だったが、マレーシアも一度は同点に追いつくゴールを奪っていたからである。
 バルサの気持ちが相当に緩んでいたのは間違いない。それでも、マレーシアはよく頑張っていた。7月下旬からの日本遠征ではJのチームにこてんぱんにやられていたようだが、この試合では、何人かの選手が明らかにバルサをたじろかせるプレーを見せていた。これならばJでも十分にやれる。そう思わせるプレーぶりだった。

 ところが、である。

 軽い気持ちで彼らの年棒を聞いてみて驚いた。たとえば、この試合ではCBを務めていた、状況によってはボランチもできそうな選手の場合、月給2万5000ドルプラスボーナスだという。
 日本円に直せば、軽く3000万円を超える額である。

 ご存じの方も多いだろが、Jリーグは東南アジアとの関係を重視している。つい最近には、札幌に初のベトナム人選手も加入した。こうした流れは今後徐々に勢いをつけていくのでは、というのがわたしの考えだった。大前提としてあったのは、日本と東南アジアの経済格差である。

 だが、マレーシア国内リーグでプレーする、世界的にはまるで無名の選手が3000万円をはるかに超える額を得ているとなると、話はまるで違ってくる。彼らにとっての日本は、すでに大金を手にできる黄金の国ではなく、レベルは高いけれども収入は減ってしまう国、なのだ。

 これでは、Jがアジアのプレミアリーグになるのは極めて難しい。

 ここにきて、Jに2シーズン制を導入するか否かという論議がまた活発になってきた。個人的な考えを言わせてもらうならば、2シーズン制は邪道である、と思う。だが、その一方で、新たな資金獲得の道を考えなければ、10年後、20年後のJがアジアに呑み込まれるのでは、という危機感もある。日本を追い上げる彼らの足どりは、想像していたよりはるかに速い。

 間違いなく言えるのは、このままではいけない、ということである。
 プレミアリーグは、そこでプレーする選手のギャラもプレミアであるがゆえに、プレミアたりえている。日本人のみならず、東南アジアの選手にとっても魅力的なリーグであるがために、Jは何をすべきか。早急に考えなければならない課題である。

<この原稿は13年8月22日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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