8月も終わるというのに、暑い日が続いていますね。そんな気候と比例するかのように、Jリーグでも熱い戦いが繰り広げられています。毎節のように首位が入れ替わり、どのチームが抜け出すかを予想するのは困難です。団子状態はしばらく続くでしょう。
 大宮、不振脱出の条件

 上位陣を見てみると、サンフレッチェ広島は序盤こそ出遅れたものの、着実に勝利を重ねてきたところはさすがです。やはり、優勝した昨季からそれほど体制が大きく変わっていない点が安定した戦いにつながっていると感じます。また、横浜F・マリノスと浦和レッズといった古豪が上位につけていることも印象的です。いずれも、ようやくチーム内の戦力の入れ替えが落ち着き、軌道に乗ってきたといえるでしょう。

 一方で、旋風を巻き起こしていた大宮アルディージャは失速してしまいました。開幕から10試合、無敗を続け、W杯最終予選とコンフェデレーションズカップに伴う中断期間に入るまでは首位を走っていました。しかし、リーグ再開後は連敗を重ね、現在は6位にまで下がっています。

 その要因として、チーム内に不協和音が起きていたという報道がなされています。結果が出ない時、監督は選手を入れ替えて不振脱却を図ることはよくあります。しかし、これを頻繁に行えばその度に組織を作り直さないといけません。結果が出ないことで選手、監督が焦り、一丸となった戦い方ができなくなると、フロントも「あの監督では無理なのでは」という考えが生まれてきます。大宮にはそういった負の連鎖が起こっているのではないでしょうか。

 現在の大宮は、私がプレーしていた96年の京都パープルサンガ(現京都サンガ)の状況と似ているように映ります。Jリーグ1年目だった京都は開幕17連敗を喫しました。監督だったオスカーが解任され、与那城ジョージさんが監督代行に就任。それでも完全に立ち直ることができず、最下位でシーズンを終えました。今、当時を振り返ると、選手起用や戦術が定まらず、勝てない状況が続いて選手も監督も自信を失っていたと感じます。

 大宮も今月に入ってズデンコ・ベルデニック監督を解任しました。しかし解任後も連敗は止まらず、現在8連敗中です。この結果が示すように、私は指揮官交代だけでは真の解決にはならないと見ています。必要なのは自分たちの戦い方を整理し、選手を固定すること。そこで1回勝てれば、「このかたちをベースにいこう」と監督、選手間で最低限のベースが見えてきます。開幕からずっと無敗だったわけですから、決して力がないわけではありません。「この戦い方なら勝てる」とチーム全体が自信を取り戻せば、再び、勝ちを重ねられるようになるでしょう。

 大迫、ゴール量産の理由

 鹿島アントラーズは現在4位と優勝を狙える位置につけています。昨年の同時期(第23節終了時)の順位は13位でしたから、トニーニョ・セレーゾ監督のチームづくりはいい方向に進んでいると言えるでしょう。

 その鹿島を牽引しているのが大迫勇也です。昨季も自己最多の9ゴールをあげましたが、今季はすでに13ゴール。点取り屋としての能力が覚醒しつつあるように感じます。大迫はなぜゴールを量産できるようになったのか。それは、試合を通してプレーに強弱をつけられるようになったからだと私は見ています。

 以前の彼は、相手が最終ラインでボールを回していると、とにかくプレスをかけに行っていました。それが今季は、少し引いた位置にいます。これにより、相手にポゼッションはさせるけども、パスコースを規制するなどして攻撃の芽を摘むようにしているのです。逆に、味方がボールを奪った瞬間は空いたスペースに向かって動き出しており、ムダがありません。チームが守備に回っている時間帯なのか、攻撃している時間帯なのかをはっきりと理解してプレーしていますね。

 体力のロスが少なくなったことで持ち前の高い技術を試合終盤でも発揮できるようになりました。GKの位置などを最後まで見て流し込む冷静な判断力も90分間、持続できるようになったのです。今回は日本代表にも選ばれましたし、大迫にはこのまま右肩上がりの成長曲線を描いていってほしいですね。

 鹿島の課題を挙げるとすれば、先取点を取られる試合が多いことでしょう。現在は絶好調・大迫の活躍もあって中盤から終盤にかけて追いつき、逆転できていますが、追いかける側になると相手の戦い方に左右される要素が多くなってしまいます。

 早い段階で先制し、そこからポゼッション、カウンターを使い分け、相手に主導権を渡さない。やはり鹿島の真骨頂はリードしてからの試合運びにあります。これができるかどうかが優勝に近づくためのカギを握るでしょう。ナビスコカップは敗退してしまいましたから、獲得の可能性がある残りの国内タイトルはリーグと天皇杯です。選手たちには、“常勝”鹿島の一員としての奮起を望みます。

 ザックジャパン、カウンター対策の改善を

 8月は日本代表の試合も行われ、ザックジャパンはウルグアイに2−4で敗れました。7月の東アジアカップを制し、アジアでは頭ひとつ抜けている日本ですが、ウルグアイのような世界クラスの相手とはまだ大きな差があります。

 特にウルグアイ戦では守りの整備が進んでいないと感じました。おそらく日本はアウェーのウルグアイが序盤は守備的にくると予測していたのでしょう。ところが、ウルグアイが立ち上がりから攻撃を仕掛けてきました。これに虚を突かれ、うまく対応できずに守勢を強いられてしまったのです。勝負時を見極める力は相手が一枚上手だったと言わざるを得ません。

 最初の失点は、前半27分、相手のクリアボールからのカウンターでした。吉田麻也がルイス・スアレスに裏をとられ、折り返しのボールをディエゴ・フォルランに決められました。相手のクリアが攻撃につながるという突発的なものではあったものの、DFの選手は前線にボールがある時こそ、万が一を想定しておかなければなりません。あのシーンでは、守備陣のカウンターに対する想定が甘かったと思います。

 また3失点目は、右サイドからのクロスがこぼれたところをスアレスに押し込まれました。この場面、クロスには吉田が対応し、左足のインサイドで軽くボールを蹴り出しました。おそらく、吉田は前方にいた選手にパスをつなごうと考えていたのでしょう。しかし、あろうことかボールはスアレスに渡ってしまった。吉田は判断ミスではなく、技術的なミスを犯したのです。

 ただクリアするのではなく、攻撃につなげようとする判断は間違いではありません。しかし、ゴール前で最終ラインの選手が単純ミスを犯すことは絶対にあってはいけないことです。パスをつなぐ“哲学”も理解できますが、ゴール前ではボールを遠くにクリアするのが“セオリー”。キャリアのある吉田なら、哲学とセオリーのどちらを優先すべきかを的確に判断してほしかったですね。

 同じセンターバックの立場から、吉田にアドバイスすると、彼はフリーになる時間を増やす必要があります。センターバックは攻撃の組み立てに関わることも重要ですが、それよりも試合の状況を常に把握しておかないといけないポジションです。チームが攻めている間に、相手FWの位置を確認し、GKともコミュニケーションをとっておくことが求められます。

 周りを冷静に見られる余裕があれば、ウルグアイ戦で受けたような突発的なカウンターにも対応しやすくなります。味方の攻撃時も相手FWには誰かをマークにつかせ、自らは裏にボールが急に放り込まれることに備えておく。もちろん、自分の前のスペースに相手が入ってくればマークもしなければなりません。

 吉田はザックジャパンの守りのリーダーとして、もっと成長していってほしい存在です。ザゲイロに大切なのはフリーの時間をいかにつくるか。このポイントをしっかり認識して、日々の練習やゲームに取り組んでほしいと願っています。

●大野俊三(おおの・しゅんぞう)<PROFILE>
 元プロサッカー選手。1965年3月29日生まれ、千葉県船橋市出身。1983年に市立習志野高校を卒業後、住友金属工業に入社。1992年鹿島アントラーズ設立とともにプロ契約を結び、屈強のディフェンダーとして初期のアントラーズ黄金時代を支えた。京都パープルサンガに移籍したのち96年末に現役引退。その後の2年間を同クラブの指導スタッフ、普及スタッフとして過ごす。現在、鹿島ハイツスポーツプラザ(http://kashima-hsp.com/)の総支配人としてソフト、ハード両面でのスポーツ拠点作りに励む傍ら、サッカー教室やTV解説等で多忙な日々を過ごしている。93年Jリーグベストイレブン、元日本代表。

*ZAGUEIRO(ザゲイロ)…ポルトガル語でディフェンダーの意。このコラムでは現役時代、センターバックとして最終ラインに強固な壁を作った大野氏が独自の視点でサッカー界の森羅万象について語ります。
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