アルティメットという競技を、ご存知か? 格闘技ではない。フライングディスクを用いる米国生まれの団体競技である。
 コートは100×37メートルだから、アメリカンフットボールより一回り小さめのサイズ。敵味方7人ずつに分かれ、エンドゾーン内でディスクをキャッチすれば得点になる。ルールはアメフトやバスケットボールに近い
 さて、この競技の最大の特徴は「セルフジャッジ」。つまりコート内にレフェリーが、ひとりもいないこと。ジャッジをするのは選手自身だ。レフェリーのいない競技としてはゴルフが有名だが、団体競技では珍しい。カーリングも基本的にはセルフジャッジだが、判定が難しい計測は審判が行う。

 アルティメットは身体の接触が禁じられている。ディスクの奪い合いになった際、微妙
なプレーで、どちらかのプレーヤーが転んだとする。仮にディスクを持つオフェンス側がファウルを受けたと主張し、ディフェンス側が「身に覚えがない」場合は「コンテスト」とコールし、両者の間で話し合いが始まる。意見が食い違ったままの時は、ワンプレー分、元に戻すというやり方で決着がはかられる。

 何とも牧歌的な競技だが、ある意味、これがスポーツの原点なのかもしれない。

 MLBがビデオ判定を来季から拡大する方針を明らかにした。監督にアメフトのような抗議権が与えられ、異議申し立てができる。一部の関係者は「誤審の89%がカバーできる」と語っている。

 サッカーにおいても昨年のクラブW杯や今年のコンフェデレーションズカップでは「ゴールラインテクノロジー」と呼ばれる機械判定システムが用いられた。来年のブラジルW杯でもこうしたゴール判定技術の採用が決まっている。

 近年は動画サイトの普及で、選手やファンの視線が厳しくなってきた。もう「誤審も競技のうち」などと無責任なことは言っていられない。むしろ文明の利器の積極活用で審判が“誤審”という汚名から解放されるのであれば、悪くはない試みだと思う。

 しかし、どんなに“科学の目”が進歩を遂げてもスポーツの原点は変わらない。フェアネス、ヒューマニズム、そしてリスペクトマインド。「スピリット・オブ・ザ・ゲーム」(良心のゲーム)と呼ばれるアルティメットから、メジャー競技が学ぶべき点は少なくない。

<この原稿は13年9月4日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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