スポニチが比較的大きく取り上げていた一方、ほとんど無視した新聞もあった。どれほど重要性、信憑性のある発言なのか、社によって判断がわかれたのだろう。FIFAのブラッター会長がカタールでのW杯開催について極めて異例のコメントをしたという“事件”である。
「アメリカ、日本、韓国やオーストラリアではなく、カタールを開催地に選択するというミスを犯した。夏にあそこでプレー可能と思ったことが、そもそもの間違いだった。その季節に、あそこでプレーすることは不可能だ」

 なにを今更、という突っ込みが世界中から聞こえてきそうだが、天災を理由に86年大会の開催地がコロンビアからメキシコに変更されて以来、W杯の開催権が剥奪されたことはない。誰よりもそのことを知る人物が、しかも日本人に比べればはるかに自分のミスを認めたがらない文化圏で育った人物が、公の場でここまで自らの事実誤認を口にするのはちょっとあることではない。中東開催を嫌う勢力の巻き返しがなされたのか。いずれにせよ、あまりにも多くの「なぜ?」がある。FIFAの中で何らかの異常事態が起きている可能性も否定はできない。

 サッカー好きの多い我が知人の中には、早くも「日本が代替開催を立候補すべきだ」と意気込む声もある。メキシコ、西ドイツ、そしてブラジル。なるほど、五輪とW杯を続けて開催するのは珍しいことではない。開催する側からすればメリット、アドバンテージもあるのだろう。

 ただ、個人的にはあまり賛成はできない。カタールが暑いというのであれば、日本もまた暑い。実際、02年のW杯は、灼熱(しゃくねつ)の中で行われた94年米国大会と並び、近年の中では最も退屈な大会だったという印象がある。招致に成功すれば日本のためにはなるだろうが、サッカーのためにはならない気がする。

 06年のW杯開催を機に、ドイツでは多くの専用競技場が建設され、また、多くの陸上競技場からトラックが取り払われた。

 翻って、日本では?

 暑さは、サッカーを蝕む最悪の要因のひとつである。だが、素晴らしいスタジアムと観客の存在は、時に暑さをも克服することがある。多くのJのチームが陸上競技場で戦い、かつそれが解消される気配もほとんどない現在の日本に、W杯を開催する資格があるとは思えない。

 もちろん、代替開催をきっかけに、というやり方はあっていいのだが。

<この原稿は13年9月12日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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