メジャーリーグも日本のプロ野球もプレーオフ進出に向けて佳境に入っていますね。20日(現地時間)にはアメリカン・リーグ東地区のボストン・レッドソックスが2007年以来の地区優勝を決め、リーグでポストシーズン進出一番のりを果たしました。地区最下位に終わった昨季からの見事な復活と言っていいでしょう。その立役者となったのが、今季新加入した上原浩治です。田澤純一とともにリリーバーとしての活躍は、日本でも話題となっていますね。
 上原は23日現在、4勝1敗21セーブで防御率は1.12です。17日のボルティモア・オリオールズ戦で今季初黒星を喫するまで、27試合連続無失点、連続打者アウト記録は球団新記録の37人を数えました。こうした上原の活躍の主な要因は2つ挙げられます。チームが優勝争いしていること、そして自分自身にしっかりとしたポジションが与えられていることです。自分が結果を残すことで、それがチームの勢いにつながる。これが彼のモチベーションを上げているのです。表情を見ても、いかに気持ちが充実しているかが手にとるようにわかりますよね。

 上原は巨人時代から制球力に優れたピッチャーでした。今季はその制球力に磨きがかかっていますね。特に、確実にファーストストライクを取ることができるのが、上原のすごいところです。初球から厳しいコースでストライクを取れるからこそ、勝負が早く、球数を抑えることができます。相手にとっては考える余裕がなく、駆け引きすることができません。

 また、相手をよく研究していますね。バッターの嫌なところ、しかもギリギリのコースを狙っているのです。さらにストレートと同じ腕の高さからフォークボールがくるので、打者は思わず振ってしまいます。そして、フォークに落差があるからこそ、バッターの視線が低くなり、スピードは140キロそこそこでも、スピンがよく効いた浮き上がるようなストレートが来ると、スピード以上に威力を感じるのです。

 メジャー式フォームの習得

 日本人投手がメジャーで成功するためには、日本との違いに順応することが不可欠です。そのひとつがマウンドです。メジャーのマウンドは日本よりも傾斜が高く、固い。そのため、日本の時と同じように沈み込むような投げ方では、スピードもコントロールも発揮することができません。それどころか、故障の原因になる可能性が高いのです。

 では、どうすればいいのか。メジャーでは沈み込むのではなく、マウンドに対してドンと当たっていくように投げることが重要です。イメージとしては、マウンドに椅子が置いてあるとします。日本では、この椅子に座った状態から足を上げて投げるのが理想とされています。一方、メジャーでは椅子が踏み出すところに置いてあるイメージです。椅子を前にして立ち、足を上げてそのまま椅子をまたいで踏み込む。そしてドスンとお尻をその椅子に置くようなイメージで投げるのです。上原はそのメジャー式のフォームを習得しているのです。

 逆に、未だしっくりと来ていないのが松坂大輔(ニューヨーク・メッツ)です。現在、2勝(3敗)を挙げていますが、インタビューを聞いても、まだ本人も納得していない様子。今はまだ手先で投げている状態なのです。変化球の曲がりがいいので抑えられていますが、今後はメジャーのマウンドに適したフォームをつくり上げていかなければ、勝つことは難しくなると思います。

 さて、上原がポストシーズンでどんな活躍をするのか、今から非常に楽しみですね。メジャーでのポストシーズンといえば、2年前のテキサス・レンジャーズ時代を思い出す人も少ないかもしれません。タンパベイ・レイズとのディビションシリーズでは第2戦にポストシーズン初登板を果たしたものの、手痛い3ランを浴びました。さらにデトロイト・タイガースとのリーグチャンピオンシップでも2本の本塁打を打たれ、ディビションシリーズから合わせて、ポストシーズン史上初の3戦連続被本塁打という記録をつくってしまいました。

 チームはワールドシリーズに進出したものの、上原はメンバーから外れ、最高の舞台でマウンドを踏むことができなかったのです。その時の悔しさを上原本人も忘れてはいないはずですから、今回は心の奥では並々ならぬ闘志を燃やしていることでしょう。その時の悔しさを晴らすかのようなピッチングを見せて欲しいですね。

 実はこれまでにワールドシリーズでチャンピオンになった瞬間にマウンドにいた日本人ピッチャーは、ひとりもいません。先発では難しいとは思いますが、上原はクローザーを任せられていますから、そのチャンスが巡ってくる可能性が十分にあります。そうした意味でも、今季のポストシーズンは楽しみです。ぜひ、今回は上原の実力を発揮してほしいものです。

佐野 慈紀(さの・しげき) プロフィール
1968年4月30日、愛媛県出身。松山商−近大呉工学部を経て90年、ドラフト3位で近鉄に入団。その後、中日−エルマイラ・パイオニアーズ(米独立)−ロサンジェルス・ドジャース−メキシコシティ(メキシカンリーグ)−エルマイラ・パイオニアーズ−オリックス・ブルーウェーブと、現役13年間で6球団を渡り歩いた。主にセットアッパーとして活躍、通算353試合に登板、41勝31敗21S、防御率3.80。現在は野球解説者。
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