クライマックスシリーズ(CS)、ドラフト会議も終了し、今シーズンのプロ野球もいよいよ大詰めを迎えています。残るは日本シリーズのみ。今年はV9時代以来となる連覇を狙う巨人と、創設9年目にして初の頂上決戦に挑む東北楽天との対戦となりました。果たして、日本一の座をつかむのはどちらなのでしょうか。どんな熱戦が繰り広げられるのか、非常に楽しみです。
 キーマンは復調待たれる坂本

 さて、今年のセ・リーグのCSファイナルステージですが、巨人が無傷の3連勝であっという間に日本シリーズ進出を決めました。ファーストステージを連勝して上がってきた広島に勢いを感じていましたので、もう少しもつれるかなと思っていたのですが……。短期決戦に入っても落ち着いた戦いぶりを見せた巨人には、リーグ王者の風格が漂っていましたね。

 ファイナルステージで見えたのは、原辰徳監督の信念でした。それが顕著に表れていたのが、第1戦。0−2と2点ビハインドの4回裏、巨人は1点を返し、なおも満塁となった場面で早くもエース内海哲也に代打を出しました。結局、代打・石井義人が空振り三振に倒れて、追加点を挙げることはできませんでしたが、私はその非情なまでの采配が、その後の逆転劇につながったのだと感じました。

 その時の内海は2失点を喫してはいたものの、ピッチング自体はそれほど悪くはありませんでした。そのまま続投ということも、十分に考えられる内容でした。それでもあの場面で迷うことなく代打を送り出したのは、短期決戦の怖さを知っていたからでしょう。レギュラーシーズン2位の中日に、巨人にしてみたら“まさかの”3連敗を喫し、崖っぷちに立たされた昨年のファイナルステージも頭をよぎったかもしれません。だからこそ、原監督は情を捨て、勝負に徹したのです。それは内海も十分に理解していたと思います。

 今季の巨人はレギュラーシーズンでも2位・阪神に12.5ゲーム差をつけて、首位を独走。早々とリーグ優勝を決め、CSでも広島に付け入る隙を与えませんでした。とはいえ、巨人が盤石の体勢だとは言い切れません。投打ともに、不安材料を抱えています。特に先発陣の安定感でいえば、楽天の方に分があります。だからこそ、日本シリーズでのポイントとなるのは、やはり打線ということになります。そこで中軸の村田修一や阿部慎之助はもちろんですが、私が一番注目したいのは坂本勇人です。

 坂本は今季、後半に入って打撃不振の状態が続いています。CSでは第1戦で同点弾、第3戦では勝ち越し打と、勝利に貢献はしたものの、3試合で放ったヒットは、この2本だけ。本人が語っている通り、まだ復調の兆しが見えてきたとは言い切れません。その坂本が日本シリーズで初戦から結果を出すことがあれば、巨人は非常に優位に立てる。チームも勢いに乗ってくるでしょう。

 再び挑戦者に戻れる強み

 一方、楽天はというと、ファイナルステージでは田中将大を筆頭に、ルーキー則本昂大、美馬学と、先発陣の好投が目立ちました。この3人については、ほぼ完璧な内容だったと言えるでしょう。3人に共通しているのは、ここぞという時に、ストライクゾーンで勝負ができるということ。今季の楽天の強さの象徴でもあったと思います。

 日本シリーズでは、首脳陣はおそらく田中、則本の2人で4勝という計算のもとに、ローテーションを組んでくることでしょう。そこに、ファイナルステージでプロ初完封を成し遂げた美馬のような、ラッキーボーイ的存在が投手陣に出てくれば、日本一の座がグッと近づいてくるはずです。ファイナルステージで弱さが露呈したリリーフ陣においては、CSでは登板のなかった青山浩二が戻ってくれば、大きいですね。

 打線は、CSではアンドリュー・ジョーンズ、ケーシー・マギーの助っ人2人に頼り切ってしまった感が否めません。正直、つながりという点ではレギュラーシーズンのような勢いはあまり感じることができませんでした。しかし、日本シリーズでは勢いを取り戻してくることでしょう。というのも、CSではリーグチャンピオンとして迎える側であった楽天ですが、日本シリーズではディフェンディングチャンピオンとしてのプレッシャーがかかる巨人とは異なり、楽天は再びチャンレンジャーになることができるからです。やはり、“追いかけられる”より“追いかける”方が、精神的には楽に戦えると思います。

 とはいえ、もし“不敗神話”が続いているエース田中が負けるようなことがあれば、流れは一気に巨人に傾いていくことでしょう。では、巨人打線が田中を打ち崩すにはどうすればいいのか。田中はピンチの時にも動じない強気のピッチングが真骨頂ですが、実はどんどん攻めていくというよりは、カウントを整えて勝負することを好むピッチャーです。ですから、巨人打線はカウントが整う前、それこそ初球からしかけていけば、チャンスは出てくるはずです。しかし、フライではなく、しっかりとゴロを打つことが重要です。

 いずれにせよ、今年の日本シリーズも初戦から見どころが満載。クライマックスシリーズ以上に、ファンを緊張感と高揚感に包んでくれることでしょう。まずは初戦、絶対に見逃さないで欲しいと思います。

佐野 慈紀(さの・しげき) プロフィール
1968年4月30日、愛媛県出身。松山商−近大呉工学部を経て90年、ドラフト3位で近鉄に入団。その後、中日−エルマイラ・パイオニアーズ(米独立)−ロサンジェルス・ドジャース−メキシコシティ(メキシカンリーグ)−エルマイラ・パイオニアーズ−オリックス・ブルーウェーブと、現役13年間で6球団を渡り歩いた。主にセットアッパーとして活躍、通算353試合に登板、41勝31敗21S、防御率3.80。現在は野球解説者。
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