「2020年東京五輪で金メダル30個獲得を!」
 山本化学工業がこのほど発表した2020年の東京五輪・パラリンピックに向けたプロジェクトが反響を呼んでいる。これまで同社が開発してきた高機能性製品をさらに改良するとともに、日本の若いアスリートたちに原価提供し、サポートしていく。そんな試みに7年後の活躍を夢見る選手、関係者から既に問い合わせが寄せられているという。「我々の製品で選手のパフォーマンスを向上させるお手伝いをしたい」と語る山本富造社長に、二宮清純が思いを訊いた。

 成長期の若手に正しい動きを

二宮: 「2020年の東京五輪で金メダル30個獲得」。今回のプロジェクトでは大きな目標設定をされていますね。
山本: ロンドン五輪の金メダルが7個ですから、7年間で4倍に増やす必要があります。そのためには、何より現在のジュニアやユース世代が各競技で伸びてこないといけない。そのお手伝いを我々の商品でできればと考えました。

二宮: それが、有望な若手に製品を原価提供するというアイデアになったわけですね。
山本: ジュニアを支援するといっても、まだ結果が出ていない時点ではスポンサーもつきにくい。逆に言えば、メーカーなどとの兼ね合いもないので、我々がサポートするチャンスだと考えました。最初は原価提供ですが、我々の製品を身につけてトップアスリートに成長してくれるのであれば、さらに厚く支援することも検討しますよ。

二宮: 特に伸び盛りの若手をサポートすれば、より高いパフォーマンスを引き出すことにもつながります。思わぬ逸材が現れるかもしれない。
山本: 7年後だから、まだ、どんな選手が出てくるか分かりません。逆に言えば、その分、楽しみもある。成長期の若い選手が“ゼロポジション水着”や“ゼロポジションベルト”で体に正しい動きを身につければ、飛躍的に伸びる可能性もある。

二宮: “ゼロポジション”の考え方は動きの中で無理なく正しい位置を体に覚えこませるという点が画期的です。
山本: 今まで骨盤を矯正するという考え方はあっても、寝転がったり動いていない状態で施術をするため、また動いている間に元のズレている段階に戻ってしまうんです。体が悪い動きを覚えてしまっているから、いくら矯正しても一時的なもので終わってしまう。“ゼロポジション”の発想は骨盤を正常な状態にしてから、体を動かしてもらい、その動きを身につけさせることを目指しています。正しい動きが当たり前になれば、“ゼロポジション”の水着やベルトを装着していなくても、パフォーマンスにムダがなくなってきます。

二宮: “ゼロポジションベルト”は、この6月に実用新案も取得しています。
山本: 3月に申請して、6月に取得できました。実用新案の審査は、他に類似のものがないかどうか調査するので時間がかかるケースが多い。事前に弁理士さんを通じて似たような製品がないことは把握していましたが、こんなに早く審査が通るとは思いませんでした。

 障害者スポーツ、冬季競技でも活用

二宮: 今回のプロジェクトでは練習用水着として、改良版の“ゼロポジション2”を発表しました。
山本: 浮心と重心を泳ぎながら一致させる従来の“ゼロポジション水着”に、骨盤のズレを解消させる機能を追加しました。骨盤のバランスが悪いと、いくら足をキックしてもまっすぐ前に進みにくい。そのまま泳ぐと曲がってしまうところを、上半身で修正して泳いでいるスイマーも多いんです。泳ぎながら骨盤を矯正することで前への推進力がより高まり、記録のアップに貢献できるはずです。

二宮: 2020年には五輪とともにパラリンピックも開催されます。障害者スポーツの選手にも役立つでしょう。
山本: 車いすランナーの副島正純選手が、リオデジャネイロから採用されるパラトライアスロンに挑戦するためにスイムの練習を始めたところ、バランスが悪くてなかなかうまく泳げない。そこで早速“ゼロポジション2”を装着して練習してもらったところ、劇的に泳げるようになりました。

二宮: 手足が不自由だったり、欠損している障害者アスリートは健常者以上に体のバランスがとりにくい。正しい動きを覚えこませることがパフォーマンス向上には欠かせないでしょうね。
山本: バランスの悪さを他の部分で補おうとするから動きとしてはどんどん悪い方向に向かっていく。それを修正することで動きも良くなるし、何よりムダなエネルギーを消耗しないので疲労度も軽くなります。

二宮: 来年2月にはソチ五輪も控えています。“ゼロポジション”の発想はウインタースポーツにも応用できるのでは?
山本: もちろんです。今、ソチを狙っているショートトラックスピードスケートの上村大輔選手が10月頭からゼロポジションベルトを装着して練習しています。強化担当の方にお話を伺うと、スピードスケートの選手は骨盤がずれているケースが多いそうです。トラックを同じ方向にまわりますから、どうしても遠心力で振られて右側の骨盤が開いていく。1カ月ほど着けて骨盤を練習の中で矯正してもらっているので、どんな結果が出るか期待しています。

二宮: スキーのジャンプやフィギュアスケートなども体のバランスが崩れると、パフォーマンスが落ちてしまう。骨盤を正しい位置にキープすることが重要でしょうね。
山本: フィギュアスケートを見ていると、好成績を収めている選手は体の中心から動いている。軸が一本になってブレていないんです。ジャンプで失敗する選手は軸足が体の中心線にしっかり乗っていない。骨盤を正しい位置において、常に軸を安定させることは、いい演技をする上での大切な要素だと感じています。だから、“ゼロポジション”の発想は役立つと思うんです。

二宮: 夏も冬も、五輪もパラリンピックも、山本化学工業の高機能製品でサポートしていけば、日本のスポーツ界に新たな流れが生まれるかもしれません。
山本: いろんな競技のアスリートを見ていると、科学的トレーニングの成果でパワーの面では着実にレベルアップしているように感じます。ただ、いくらパワーがあっても、体のバランスがズレたままでは最大限の能力は発揮できない。よく「軸がブレないことが大事」と言われますが、では「軸がブレないためには何をすべきか」という部分では見落とされているものがあるのではないでしょうか。“ゼロポジション”は、その観点で日本のスポーツ界にひとつの提案ができればと考えています。

 山本化学工業株式会社