「東京の2月と言えばマラソン!」。来月で8回目を迎え、すっかり都市マラソンの顔になった東京マラソン。間違いなく国内で最も有名で、最も多くのスポンサーが集まるマラソンレースである。そしてなにより、この大会のおかげで、日本でも各都市の中心部でマラソンが開催されるようになったといっても過言ではない。それまで人様の邪魔にならぬよう、人口の少ない地域、交通に支障が出ない地域で開催されていたマラソンが、一般市民参加レースでさえ都市部に進出するようになった。東京マラソンは、日本マラソン界の歴史を変える大きな一歩となったといえるだろう。
(写真:10倍の難関をクリアした3万6000人がこのゴールを目指す)
 実は、もうひとつ東京マラソンでは国内で初めての試みにチャレンジしていることがある。それがチャリティ枠の参加者募集だ。2011年、高まる参加熱に、海外での先行例を参考に作ったのだ。だが、当初から「金持ち枠」と揶揄され、「金で解決するのか」などと快く受け取られていなかった。そのため、エントリー数も思ったほど伸びていないのが実情で、開始年で707人。4年目となった今回は2590人(定員は3000人)と主催者の予想を未だに下っている。周りのランナーに聞いても、「なんだかお金で解決するようで……」「マラソンに10万円は出せない」というネガティブな意見が多い。どうも本来の趣旨が伝わっていないようなのだ。

 チャリティとは辞書によると、<慈善。慈善の心や行為。特に、社会的な救済活動をいう>(デジタル大辞泉)。つまり、チャリティマラソンは走ることと、慈善活動を結んだ美しい行為のはずだ。海外マラソンではすでに当たり前になっており、ロンドンマラソンなどでは、81年の創立当時から10年までの30年間で集められた寄付金の総額は、4億5000万ポンド(約607億円)にも上るという。一般的なチャリティ枠はおおよそ20万円程度。マラソンのエントリー料金としては相当高額である。にもかかわらず寄付を集められているのは、人が走ることにチャリティを結び付け、走る意味付けを上手く作っているからだろう。だが、日本人にはチャリティだとしても高額だという感覚なのではないか。世界的にはこれだけ定着しているチャリティマラソンが、まだまだ日本では受け入れられていないのが現実なのだ。

 日本人にとっては「お布施」とか「寄進」というと、違和感なく受け入れられるのに、「寄付」や「チャリティ」と言った途端にウサン臭いものにとられがちだ。これは宗教観の違いが大きいと思われるので、ある程度は理解できる。しかし、これだけ国際化され、情報も得られる世の中で、感覚論だけがまかり通っているのは少々寂しい。一層のこと、マラソンも「布施枠」とか「寄贈枠」などと名称変更するというのはどうだろうか。しかし、言葉でなく実態を見極める目を各々が身に付けなければ、無駄なお金を払ってしまうか、疑心暗鬼になって生きることになってしまう。今の状況はまさに「チャリティ」に疑心暗鬼になり過ぎているのだろう。残念なことである。

 今年の東京マラソンにも、30万人以上が申し込んだという。倍率10倍という難関に、多くの人が大会出場を逃した。もちろん、交通事情により定員を設けなければならないことは理解できる。だが、これだけ人気のある大会ならば、もっとチャリティの色合いを濃くしてはどうかと思う。たとえば、定員の7割はチャリティ枠にして、その集まったお金を東京オリンピック・パラリンピックの開催資金にするのはどうだろうか。7割というと約2万4000人。1人10万円のチャリティをするとすれば、24億円の財源になる。これを5年間継続した場合、120億円近い資金が作れる。スポーツをしたい人がスポーツを応援する。これが自然な姿であるし、こうやってお金を集めないと資金繰りでの“打出の小槌”は簡単に見つからない。これによって、毎年10倍を超えるような加熱した申し込みも落ち着くだろうし、公道を長い時間止める意味も十二分にあるというものだ。

 こうした意見をすると「10万円払えない人はマラソンに出られないのか?」という批判が必ず出てくる。しかし、マラソン大会は東京だけではないし、東京オリンピック・パラリンピックまでは、そういう位置付けであると割り切ってしまえば問題ないと思う。世紀の大事業をやる都市として、そのくらいのことはすべきだろう。また、チャリティは自分だけでするものでもない。その10万円を仲間で集めてエントリーするというチャリティ・サポートシステムも定着してきた。これは本家のロンドンに見習って導入され、今年で2年目を迎えたが、少しずつ利用する参加者が増えているようだ。実は僕もこのシステムで昨年、今年と走らせて頂くのだが、皆の気持ちを預かっているようで、ゼッケンをすごく重く感じた。その分の責任も感じ、走る前も、走りながらも、その意味を妙に考えさせられたりした。自分のためだけでなく、人のために走ることは責任が重くもあり、その一方で頑張れたりもして、素晴らしい体験をさせてもらった。ぜひこれを多くの人に経験して欲しいと思っている。

 時代は東京に「ただ走りたいから」「マラソンしたいから」というマラソン大会ではなく、次の時代の要求に合わせたものを望んでいるはずだ。そもそも自分たちが走ってオリンピック・パラリンピックを支えるなんて、ちょっと素敵だと思うのだがいかが?

白戸太朗(しらと・たろう)プロフィール
 スポーツナビゲーター&プロトライアスリート。日本人として最初にトライアスロンワールドカップを転戦し、その後はアイアンマン(ロングディスタンス)へ転向、息の長い活動を続ける。近年はアドベンチャーレースへも積極的に参加、世界中を転戦していた。スカイパーフェクTV(J Sports)のレギュラーキャスターをつとめるなど、スポーツを多角的に説くナビゲータとして活躍中。08年11月、トライアスロンを国内に普及、発展させていくための新会社「株式会社アスロニア」の代表取締役に就任。昨年1月に石田淳氏との共著で『挫けない力 逆境に負けないセルフマネジメント術』(清流出版)を出版。
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