ついに、新ポスティングシステムでメジャー移籍を目指していた田中将大の入団先が決定しました。ニューヨーク・ヤンキースです。7年契約で年俸は総額1億5500万ドル(推定)。日本円にすると約161億円で、メジャーリーグの現役投手の中で5番目という大型契約です。金額だけでも、ヤンキースがいかに田中に大きな期待を寄せているかがわかりますね。
 周知の通り、田中は昨季、開幕から無傷の24連勝を達成し、東北楽天にとって球団創設初のリーグ優勝、日本一の立役者となりました。非の打ち所のない活躍ぶりは、まさに「お見事」のひと言に尽きます。では、なぜ負けなかったのか。ひとつはコンディショニングがうまくいったことにあると思います。ケガもなく、常に試合に臨める状態を1年間キープすることができたのです。

 そのため、昨季の田中投手は極端に調子が悪いという試合はありませんでした。たとえ少し調子を落としていても、ゲーム中に修正できるため、自分のピッチングスタイルを貫くことができたのです。

 さて、以前から田中がメジャー移籍を希望していることは伝えられていましたが、その時がいよいよやってきましたね。昨季で田中は自分のピッチングを確立させることができたと思います。そのうえでのメジャー移籍ですから、まさにベストのタイミングでのメジャー挑戦でしょう。

 背伸びをせず、スタイルを貫け

 では、果たして田中はメジャーでも活躍することができるのでしょうか。正直言って、投げて見ないとわからないというのが実情です。現段階で言えるのは活躍できる可能性、それだけの能力は十分にあるということ。期待としては15勝ですが、先発ローテーションにさえ入れば、少なくとも10勝はいくと思います。

 メジャーで成功するために必要なのは、自分のスタイルを貫くことです。これまでメジャーに挑戦した日本人選手を見ると、それが最も重要だということがわかります。もちろん、マウンドやボール、練習環境など、日本との違いは多々ありますから、その中でいかに早く順応するかは重要です。しかし、メジャーだからといって、特別なことをしようとする必要はありません。いきなり外国人選手のようにパワーをつけようとしたりして背伸びをすれば、マイナスにしかならないのです。まずは自分のスタイルで100%の力を出すこと。そこから、必要だと思えば修正を加えればいいのです。

 あえて課題を挙げるとすれば、ギアを上げるタイミングです。田中は、ランナーが出るまではカウントを整えようとします。そして、いざランナーが出てピンチを迎えたところでギアが上がり、結果的にはゼロで抑える。これが田中の魅力のひとつでもありました。しかし、メジャーのバッターは打てるボールが来れば、初球から迷わずフルスイングしてきます。おそらく悠長に「カウントを整えて……」というピッチングは通用しないでしょう。「初球から振ってくるぞ」という意識を強く持ち、カウントを考えるのではなく、相手バッターとの勝負に集中すること。そうすれば、田中の力を発揮できるはずです。

 ヤンキースには黒田博樹とイチローがいますので、田中には心強い先輩となることでしょう。そしてやはり、日本人選手の対戦も楽しみなところです。ヤンキースと同じアメリカンリーグ東地区には昨季、ワールドシリーズ制覇の立役者でもある上原浩治と田澤純一(ともにボストン・レッドソックス)、さらにダルビッシュ有(テキサス・レンジャーズ)も同じア・リーグです。日本を代表するピッチャー同士の投げ合いを、ぜひ見たいものです。

佐野 慈紀(さの・しげき) プロフィール
1968年4月30日、愛媛県出身。松山商−近大呉工学部を経て90年、ドラフト3位で近鉄に入団。その後、中日−エルマイラ・パイオニアーズ(米独立)−ロサンジェルス・ドジャース−メキシコシティ(メキシカンリーグ)−エルマイラ・パイオニアーズ−オリックス・ブルーウェーブと、現役13年間で6球団を渡り歩いた。主にセットアッパーとして活躍、通算353試合に登板、41勝31敗21S、防御率3.80。現在は野球解説者。
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