甲府がインドネシア代表イルファンを獲得した。昨年、札幌がベトナム人選手を獲得したことに続き、いよいよJリーグの東南アジア戦略も本格化してきた。
 今回の獲得で注目すべきは、クラブが自治体と密接なタッグを組んだことである。つまり、クラブだけでなく、山梨県も東南アジア屈指の大国であるインドネシア人の選手を獲得する意味とメリットを理解し、クラブに先立って同国出身者を県庁のスタッフとして迎え入れていた。行政の冷たさ、無理解と戦うクラブは珍しくないだけに、これは画期的な出来事だと言っていい。
 わたし自身、沖縄のクラブに関わって痛感したことだが、自治体からの予算を取り付けるためには非常に高いハードルがいくつもある。もっとも、それも当然といえば当然で、公的な資金を投入する以上、大多数の人を納得する理由がなければならず、世の中にはスポーツに興味のない人、毛嫌いする人も確実に存在しているからである。

 それだけに、ハードルを乗り越えるためには、クラブ側の努力はもちろんのこと、自治体内部に熱意のある理解者がいなければならない。サッカーの歴史がない地域では、その点が難しいわけだが、さすがは山梨、高校サッカーに親しんだ人が少なくなかったということなのだろうか。

 時に「お役所」と揶揄されることもある腰の重さも、慣性の法則のごとく、一度動きだせば簡単には止まらない迫力に変わる。東南アジア戦略が単なる一過性のものに終わらせないためにも、甲府と山梨県のタッグは大きな意味を持ってくる。

 ただ、Jリーグの東南アジア戦略には、これから克服しなければならない大きな課題がある。

 昨年、FC琉球はマレーシアから2人の選手を獲得した。残念ながら、1人は1試合にも出場することができず、もう1人も大きなケガに見舞われてしまい、まったく力を発揮できなかった。とはいえ、2人ともまだ若かったこともあり、チームとしては新年度も契約を更新するつもりだった。

 ところが、思わぬ事態が起きた。元アルゼンチン代表のアイマールを3億円で獲得したクラブが、JFLでほとんど出場機会のなかった選手に対し、3000万円を超えるオファーを提示してきたのである――。

 いまはまだいい。東南アジアにはJのレベルに対する憧れがある。だが、現状のJのサラリーでは、東南アジアからもそっぽを向かれる時代が必ずや訪れる。そうならないためにはどうするべきか。公との連携以上に、考えていかなければいけない問題である。

<この原稿は14年2月6日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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