「もう2月なのだから、より安定したプレーを続ける必要がある。これまでも良いゲームはあったけど、安定感がなかったことが自分としては気に入らなかった。そろそろ一丸となってペースを上げていく時期だよ」
 2月1日のニューヨーク・ニックス戦に106−91で圧勝を飾った直後――。レブロン・ジェームスが残したそんなコメントが、王者マイアミ・ヒートの現状を分かりやすく物語っていた。
(写真:帝王レブロンはジョーダン、コービー以来の3連覇を果たせるのか Photo By Gemini Keez)
 過去2年連続NBAファイナル制覇を飾ったヒートは、今シーズンも大本命との下馬評でスタートを切った。3連覇達成となれば、マイケル・ジョーダンが引っ張ったシカゴ・ブルズ、シャキール・オニール、コービー・ブライアントという強力デュオを擁したロスアンジェルス・レイカーズ以来の偉業となる。ただ、今季ここまでは、すべてが順風満帆だったわけではない。

 2月7日時点で35勝13敗の成績で、インディアナ・ペイサーズに3ゲーム差を付けられてイースタン・カンファレンス2位。1月は8勝6敗と停滞し、9〜15日にはすべて勝率5割以下のニックス、ブルックリン・ネッツ、ワシントン・ウィザーズに3連敗を喫したこともあった。

 2012年のファイナルの再戦となった1月29日のオクラホマシティ・サンダー戦でも、地元マイアミで95−112で大敗。この日も含めて12試合連続で30得点以上を挙げたサンダーの大黒柱ケビン・デュラントを止め切れず、全米生中継のゲームで恥をかかされることにもなった。

「僕たちはここまで考え得る限り、すべての種類のゲームを一緒に経験し、乗り越えてきたからね」
 今季開幕直後にレブロンはそう語っていたが、そんな余裕と自信が必ずしも常にプラスに働くわけではないのも事実だろう。

 レブロン、ドウェイン・ウェイド、クリス・ボッシュという3人が主体となった“ビッグスリー”体制も、これが4季目。新陳代謝の激しい米スポーツ界において、4年は短い時間ではない。互いを知り過ぎているがゆえに、コミュニケーションは逆に難しくなり、マンネリも生じかねない。

 ヒートは決して若いチームではなく、膝の状態に悩まされ続ける32歳のウェイドはすでに13戦を欠場。さらにレイ・アレンは38歳、ユドニス・ハスレムは33歳、シェーン・バティエが34歳と一部の主力選手は高齢だけに、シーズンを通じたスタミナも気にかかるところである。
(写真:レブロン(左)がディフェンダーを引きつけた上で繰り出されるアレン(右)の3点シュートは強力な武器だ Photo By Gemini Keez)

 そして何より、頼みの怪物レブロンも、今季の平均26.3得点はデヴュー2年目以降では最低の数字となっている。加えてフィールドゴール試投数、平均スティール、平均ブロックもすべてキャリア・ワーストであり、平均リバウンドもこの7年間で最低の成績。過去5シーズンで4度もリーグMVPに輝いたレブロンだが、今季はややインパクトに欠けるだけに、現時点ではリーグ1位の平均31.0得点をマークしてきたデュラントをMVP最有力候補に推す関係者も多い。

 加齢、マンネリ、対抗馬ペイサーズの成長に加え、このようにレブロンもややペースダウン。だとすれば、ヒートの3連覇への挑戦には黄信号が灯っていると言えるのだろうか……?

 ただ、冒頭のレブロンの言葉にある通り、経験豊富なヒートの選手たちは巧みにペース配分を図っている部分もあるのだろう。
「(29日のサンダー戦では)地元で恥ずかしい試合をしてしまった。そろそろ調子を上げなければいけない時期だよ。スーパーボウル(今年は2月2日)が終われば、スポーツファンはNBAに注目し始める。それこそが僕たちも調子を上げなければいけないというサインなんだ」
 鍵を握るロールプレーヤーのバティエも、レブロンとほぼ同じ意図のことを語っていた。
(写真:冷静沈着なバティエ(左は映画監督のスパイク・リー)は、さまざまな形でチームを助ける Photo By Gemini Keez)

 過去3シーズンで他のどこよりも多くの試合をこなし、しかも数多くのベテランを抱えるヒートは、1年を通じてフルパワーで突っ走ろうとするべきではない。エネルギーを費やし過ぎず、体調を整えながら、4月のプレーオフ開始に向けて徐々にエンジンをかけていけば良い。

 思えば昨シーズンも、ヒートが成し遂げたリーグ史上2位の27連勝が始まったのはスーパーボウル当日の2月3日だった。そして今年のチームも、スーパーボウル前日の2月1日から3連勝を開始している。

 昨季は破竹の連勝記録に力を注ぎ込み過ぎた感があったが、貴重な経験を積んだ今季は同じミスは犯さないだろう。そう考えていくと、一部が唱える危機論は穿ち過ぎか。百戦錬磨のヒートは、依然として3連覇へと進むレールの上を堅実に走行していると捉えることもできるのかもしれない。
 
 もっとも、たとえそうだったとしても、王座への道のりは過去2シーズン以上に厳しいものになることも十分に考えられる。
 ポール・ジョージ、ロイ・ヒバートの2枚看板を中心に序盤から突っ走ってきたペイサーズからは、「今季こそが自分たちのシーズン」との意気込みが伝わって来る。このペイサーズに、ヒートは昨季のイースタン・カンファレンス・ファイナルで最終7戦まで粘られたことを忘れるべきではない。今季はカンファレンス1位を譲り、プレーオフでのホームコート・アドバンテージを奪われれば、よりハードなシリーズを強いられることになるかもしれない。

 そして、恐るべきインディアナの壁を何とか突破しても、ファイナルの相手はさらに強力だ。今やレブロンの最大のライバルと捉えられるようになったデュラント率いるサンダー、あるいは伝統の古豪サンアントニオ・スパーズとの対戦となれば、全米を興奮させる激闘が再び展開されるに違いあるまい。

 いずれにしても、2014年春は、“ビッグスリー”体制下のヒートにとってもしかしたら最後になるかもしれない大勝負の季節である。
 マジック・ジョンソン、ラリー・バード、アキーム・オラジュワン、アイザイア・トーマスといった名選手も届かなかった3連覇を果たせば、ヒートは歴史に残るチームとして記憶される。しかし、もしも敗れた場合、レブロン、ウェイド、ボッシュは、すべて今季限りの契約オプトアウト権を持っているだけに、何人かが離脱して一気に一時代が終わる可能性も否定できない。
(写真:”ビッグスリー”第3の男ボッシュの着実な貢献も浮上には必須の要素 Photo By Gemini Keez)

 やや覇気がないプレーを続けた1月までのヒートは、倦怠期を迎えていたのか、それとも上手にペース配分を行なっていたのか。レブロンは目論見通りに今後、ギアチェンジして、ジョーダン、コービーに肩を並べる3連覇を果たすのか。

 すべての答えが出される季節が、間もなくやってくる。アイドリングを終えたレブロンとヒートの行方に、今春、世界中のスポーツファンの視線が注がれることはすでに間違いないのである。


杉浦大介(すぎうら だいすけ)プロフィール
東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、NFL、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボールマガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞』など多数の媒体に記事、コラムを寄稿している。

※杉浦大介オフィシャルサイト>>スポーツ見聞録 in NY
◎バックナンバーはこちらから