あらゆる静岡勢が圧倒的な強さを誇った時代があった。日本代表の大半を占めたのも、同県出身の選手だった。「サッカーどころ」の名をほしいままにしたのも、当然といえば当然である。
 ただ、いまだ高い競争力を誇る静岡のサッカーだが、他地域の環境が整備されてきたこともあり、かつてのように突出した存在ではなくなった。ザック監督率いる現在の日本代表でも、静岡県出身者はもはや最大勢力ではない。本田も、香川も、柿谷も……大阪を中心とした関西圏の出身なのである。
 とはいえ、続々と才能を輩出しつつある割に、大阪がサッカーどころである、とのイメージは広まっていない。多くのスポーツファンにとって、大阪は甲子園であり阪神タイガースの文化圏であり続けている。

 それだけに、今年のJリーグの挑戦は面白い。

 3月1日の開幕戦、Jリーグは大阪に2つの特別なカードを持っていった。同じ街に2つのチームがある場合、ホームとアウェーの順番をずらすのが一般的なサッカーの世界で、これは相当に異例のことである。

 しかし、この思い切った決断によって、3月1日は、サッカーと大阪の関係性、イメージが変わるきっかけになるかもしれない。フォルランの獲得などで、オフの話題をさらったセレッソは3連覇に挑むサンフレッチェを、1年でJ1に帰って来たガンバはレッズを、それぞれホームに迎え撃つのである。

 どちらのカードも、今季のJ1屈指の好カードであり、それをいきなり開幕に、それもどちらも大阪に持ってきたところに、Jリーグの意気込みを感じる。心憎いことに、この2試合のキックオフ時間には5時間のズレが設けられており、お茶の間のファンは2試合をたっぷり楽しむこともできるのである。

 欧州の場合、狭い地域に多くのチームがひしめくイングランドを除くと、大都市を本拠地とする“実力伯仲のダービー”というのはむしろ例外的存在である。インテル対ミランのような関係性は、ミュンヘンにも、パリにも、バルセロナにもない。

 だが、才能の供給地としては日本屈指のエリアとなった大阪のサッカー人気に火がつけば、Jリーグは新たな魅力を獲得することになる。常にこの地域をリードしてきたガンバがJ2に転落し、一度はセレッソが立場を逆転させたことで、両者のファンはともに自信とコンプレックスを抱くようになった。喜びを、痛みを倍増させる重要な要素が、両者に行き渡った。

 一度の興行で火がつくはずはない。けれども、きっかけにはなる。今年の開幕、わたしは大阪に注目する。

<この原稿は14年2月20日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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