天野優は高校卒業後の進路として2011年、日本卓球リーグ女子1部のサンリツへの入社を決めた。高校2年の冬にサンリツの前監督からスカウトされていたのだ。同社は日本卓球リーグで優勝を争う強豪で、福原愛がゴールド選手として所属していたこともあった。
「実業団のなかでもトップクラスですし、練習に打ち込める環境も魅力に感じました。また福原さんが所属していたことも大きかったですね」
 天野は福原のプレースタイルを参考にしていたのだ。福原とは1シーズン、ともにプレーした。ピッチ、フットワークの速さはどれも世界トップレベルで、天野は「見ていてすごく勉強になりました」と刺激を受けた。
 社会人になってからは、レベルの違いに戸惑った。パワー、プレーの安定感、戦術の豊富さなど、高校時代とは一回りも二回りも高かった。ピッチの速さは通じたものの、思ったように試合を進めることが難しくなった。天野が入社した年に監督になった脇ノ谷直子は、当時の彼女についてこう語った。
「社会人の壁にぶつかっていたと思いますね。それは経験の差でした。社会人には幅広い年齢の選手がいて、経験豊富な選手が多いんです。若い選手がその相手に、真正面からぶつかっていっても、かわされることがあります。天野は実績も十分持っていますし、技術力も高い。しかし、今もそうですが、駆け引きの部分では足りないところがありましたね」

 しかし、社会人で経験を重ねることで、「成長しているところもある」と脇ノ谷は語る。以前は相手の球種に関係なくボールを打ちかえしていたのに対し、今は相手の打球の回転、タイミングに合わせて打つようになった。そして、脇ノ谷はこうした技術面のみならず、天野の精神面での成長を感じている。
「技術、戦術、メンタル、フィジカル……。卓球はどれかひとつだけが秀でていても勝てない競技です。以前の天野は、不安、緊張がプレーに影響することが多かった。でも、メンタル面のぶれ幅が小さくなってきているように感じます。だからこそ、コンスタントに勝てるようになってきていると思いますね」

 ベスト8の壁を破るために

 社会人3年目の今季、天野は前半戦こそ右ヒザのケガで調子が上がらなかった。だが、後半はサンリツの日本卓球後期リーグ優勝、国民体育大会準優勝(東京都代表)と結果を残した。調子を上げつつ、今年1月の全日本選手権を迎えた。

 スーパーシードの天野は4回戦から登場し、初戦はゲームカウント4対1で突破した。そして、つづく5回戦は劇的な展開で勝利した。天野は試合開始から松本優希(ミキハウス)に3ゲームを連取され、崖っぷちに追い込まれた。しかし、ここから天野は強気の攻めで強打を打ち込み、4ゲームを奪い返したのだ。
「前はゲームを先行されると、そのままへこんで終わってしまうことが多かった。しかし、ここのところ、ビハインドを挽回する展開で勝つことが増えてきています」
 脇ノ谷はこう天野の粘り強さを評した。

 しかし結局、天野はこれまでの最高成績と同じベスト16(6回戦)で敗れた。ベスト16は通算3回目。彼女の前にはベスト8の壁が立ちはだかっている。ベスト16で敗退後、ベンチで脇ノ谷と話し合う天野の姿があった。

「(ベスト16では)相手の球質が重く、ラリーになった時に勝てる気がしませんでした。ラリー力で差があるなと思いましたね。また、出足が悪いのも反省点です。相手に慣れられないために序盤から勝負を焦りすぎて、逆にミスしてしまう。今後はもう少し、相手の戦い方も見て対応しながら攻める必要があると思っています」
 天野は敗因と今後の課題をこう述べた。経験による駆け引きのうまさ、相手への対応力。これらが向上した時、天野の卓球は一回りレベルアップするに違いない。

 5歳で卓球と出合い、喜びも悔しさも味わってきた。
「日本代表になって世界と戦うために、まず全日本選手権で優勝したい」
 これが現在、天野の掲げる目標だ。全日本選手権決勝で、マッチポイントを奪ってガッツポーズする――その姿をイメージしながら、天野は己のスタイルを磨き続ける。

(おわり)

<天野優(あまの・ゆう)>
1992年11月25日、和歌山県生まれ。両親の影響で5歳から卓球を始める。2002年、全日本選手権(カブの部)で優勝。04年には、和歌山銀行卓球クラブのメンバーとして全国ホープス卓球大会を制した。中学から高知・明徳義塾へ進学。07年に全国中学選抜大会の学校対抗優勝に貢献。高校時代には、全国高校選手権学校対抗、国民体育大会での二冠を達成した。11年、サンリツに入社。12年には全日本実業団選手権大会優勝(サンリツ)、全日本社会人選手権シングルスで3位に入った。昨季は後期日本卓球リーグで、サンリツの3年半ぶりの優勝に貢献した。戦型は前陣速攻。右シェークフォア裏ソフト・バック表ソフト。

☆プレゼント☆
 天野選手の直筆サイン色紙をプレゼント致します。ご希望の方はより、本文の最初に「天野優選手のサイン希望」と明記の上、住所、氏名、年齢、連絡先(電話番号)、この記事や当サイトへの感想などがあれば、お書き添えの上、送信してください。応募者多数の場合は抽選とし、当選発表は発送をもってかえさせていただきます。締切は2014年3月31日(月)迄です。たくさんのご応募お待ちしております。



(文・写真/鈴木友多)
◎バックナンバーはこちらから